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放射性物質から放出される「高速で動く粒子」や「高いエネルギーを持つ電磁波(光の仲間)」のことを「放射線」と言います。
「放射線を出す物質」のことを「放射性物質」、「放射線を出す能力」のことを「放射能」と言います。
放射線には、「電離作用(物質を電離させる働き)」「蛍光作用(光を出させる働き)」「透過作用(物質を通り抜ける働き)」があります。
どんな働き? | ||
電離作用
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物質を電離(イオン化)させる働き | |
蛍光作用
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物質から「蛍光」という光を出させる働き 大分県衛生環境研究センターにはこの働きを利用した「蛍光X線分析装置」があります。 |
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透過作用
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物質を通り抜ける働き 病院で撮影するレントゲン写真は、この働きを応用したものです。 |
放射線には、次のような種類があります。
種類 | 構成する粒子 | 物質を透過する力 | 物質を電離する力 (イオン化する力) |
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粒子線 | アルファ線 (α線) |
ヘリウムの原子核 | 小さい (紙で止めることができる) |
大きい |
ベータ線 (β線) |
電子 | 中程度 (アルミニウムの板で止めることができる) |
中程度 | |
中性子線 | 中性子 | 極めて大きい (水やコンクリートのような水素を多く含む物質で遮ることができる。) |
大きい | |
電磁波 | ガンマ線 (γ線) |
(光子) | 大きい (鉛や厚い鉄の板が必要) |
小さい |
放射性物質の量を表す単位として、Bq(ベクレル=個/秒)という単位が使われています。
1Bq(ベクレル)とは、1秒間に1個の原子核が壊れていることを表しています。
放射線が物質に当たると、持っていたエネルギーを当たった物質に与えて、熱が発生します。これをGy(グレイ)という単位で表します。
1Gy(グレイ = ジュール/キログラム)とは、1キログラムの物質が、放射線により1ジュールのエネルギーを受けたことを表します。
(※ ジュールはエネルギーを表す単位で、1カロリーは、約4.19ジュールです。)
放射線が人に当たった量(グレイ)が同じでも、「放射線の種類(アルファ線が当たったのか、ガンマ線が当たったのか 等)」や「体のどの部分に当たったのか(放射線に対する感受性が高い部位に当たったかどうか)」により、人の体への影響は変わってきます。
グレイに補正を行って、人の体への影響を表したのがシーベルト(Sv)です。
身の回りには、自然の放射線と人工的な放射線があります。
自然界にあるほとんどの物質には、微量の放射性物質が含まれています。代表的な放射性物質は、カリウムの放射性同位元素である「カリウム40」と炭素の放射性同位元素である「炭素14」です。
種類 | 起源 | 物理学的半減期 (放射性物質の放射能が、物理的に半分になるまでにかかる時間) |
放射する放射線の種類 | 備考 | |
炭素14 | 炭素の放射性同位体 | 大気圏上空 (宇宙線により生成される中性子を、大気中に多く含まれる窒素原子が捕獲) |
約5,730年 | ベータ線(β線) | 空気の中の二酸化炭素などに含まれる。 |
カリウム40 | カリウムの放射性同位体 | 超新星爆発など | 約12億年 | ベータ線(β線) ガンマ線(γ線) |
岩石中に多く含まれる。白米や野菜にも微量に含まれている。 |
核実験や原子力発電所などにより発生した物などがあります。
種類 | 起源 | 物理学的半減期 (放射性物質の放射能が、物理的に半分になるまでにかかる時間) |
放射する放射線の種類 | |
ストロンチウム90 |
ストロンチウムの放射性同位体 |
原子力発電所、過去に行われた核実験など (燃料となるウランの核分裂により生成) |
約28.8年 | ベータ線(β線) |
ヨウ素131 | ヨウ素の放射性同位体 | 原子力発電所等 (燃料となるウランの核分裂により生成) |
約8日 | ベータ線(β線) ガンマ線(γ線) |
セシウム137 | セシウムの放射性同位体 | 原子力発電所、過去に行われた核実験など (燃料となるウランの核分裂により生成) |
約30年 | ガンマ線(γ線) ベータ線(β線) |
炭素などの原子は、「原子核」とまわりを回る「電子」で構成されています。原子核は「陽子」と「中性子」から構成されており、陽子の数によって元素の種類(元素の化学的な性質)が決まります。
例えば、「炭素12」(放射性核種ではない普通の炭素原子)は「6個の陽子」と「6個の中性子」からできています(※ 陽子と中性子の質量数は1なので、「炭素12」の質量数は6+6=12です。「炭素12」の12は質量数を表しています)。
一方、「炭素14」は「6個の陽子」と「8個の中性子」からできています(※ 質量数は6+8=14で、「炭素14」の質量数は14です)。
「炭素12」と「炭素14」のどちらも「炭素原子」なのですが、原子核の中にある中性子の数が違いますので、「同位体(どういたい)」と呼ばれています。
同位体のうち、放射能を持つものを「放射性同位体」と言います。(※ 放射能を持たない同位体は、「安定同位体」と言います。)
同位体の化学的な性質は同じですが、「炭素14」は陽子(6個)と中性子(8個)の数のバランスが悪く、エネルギー的に不安定な状態にあります。
これを解消するため、8個ある「中性子」のうちの1つが「陽子」1個と「電子」1個に変わって、「7個の陽子」と「7個の中性子」の原子核を持つ「窒素14」(放射性核種ではない普通の窒素原子)になります。この際、行き場を失った「電子」がベータ線として外に放出されます。
半減期とは、放射性物質の数が、元の数の半分に減るまでにかかる時間のことです。
放射性物質は不安定なので、余分なエネルギーを放射線として放出して、より安定な物質に変化していきます。安定な物質になると、もはや余分なエネルギーを放出することはありませんので、放射線を出すことはなくなります。
物理的に放射性物質の数が元の数の半分に減るまでにかかる時間のことを「物理学的半減期」と言います。物理学的半減期は、放射性物質の種類によって決まっています。
食べ物や飲み物と一緒に体の中に取り込まれた放射性物質は、呼吸、汗、うんちやおしっこなどによって、体の外に排出されます。
生物の体の働きにより、体の中の放射性物質の数が元の数の半分に減るまでの時間のことを「生物学的半減期」といいます。
私たちが暮らしの中で年間に受けている放射線の量は、年間で約4.7ミリシーベルトと言われています。
そのうち、自然由来の放射線は約2.1ミリシーベルト、人工由来の放射線は約2.6ミリシーベルトと言われています。
起源 | 1年間に受ける放射線量 (単位:ミリシーベルト) |
備考 | |
自然放射線 | 食べ物・飲み物から | 0.99 | 食べ物や飲み物に含まれる「カリウム40」などを体内に取り込むことによる。 |
大気から | 0.47 | 空気中に含まれる「ラドン」などを呼吸で吸い込むことによる。 | |
宇宙から | 0.3 | 宇宙から降り注ぐ宇宙線が、大気中の窒素原子や酸素原子と衝突することにより作り出される二次宇宙線を浴びることによる。 | |
大地から | 0.33 | 岩石や土などに含まれている「トリウム」や「ウラン」などから放出されるガンマ線を浴びることによる。 | |
航空機の利用 | 0.008 | 航空機を利用することにより、宇宙からの放射線を浴びることによる。 | |
人工放射線 | 過去の核実験・原子力事故の影響 | 0.0035 | 過去に行われた大気圏内核実験や、原発事故で放出された放射性物質によるもの。 |
原子力、放射線関連施設から | 0.00018 | 原子力施設から放出される「クリプトン85」によるものを含む | |
医療行為から | 2.6 | 胸部X線検査や、CT検査により、放射線を浴びることによる。 | |
合計 | 4.7 |
出典:公益財団法人原子力安全研究協会が作成した「生活環境放射線(国民線量の算定)第3版」に掲載されているデータ(一部抜粋)
放射線による人体への影響は、「放射線を浴びたかどうか」よりも「放射線量を浴びた量」が重要になってきます。
また、「外部被ばく」なのか「内部被ばく」なのか、「体のどの部位に放射線を浴びたのか」によっても影響が変わってきます。
放射性物質が体の外にあり、体外から被ばくすることを「外部被ばく」といいます。主に、透過力の強いガンマ線や中性子線からどのようにして身を守るかが重要になります。
例:「宇宙からの放射線」「大地からの放射線」「レントゲン撮影」など
以下の3つを組み合わせることが大事です。
放射性物質が体の中にあり、体内から被ばくすることを、「内部被ばく」といいます。特に、電離作用が大きなアルファ線を出す物質が問題になります。
例:「食べ物や飲み物をとることにより、体の中に放射性物質を取り込むことによる被ばく」など
呼吸により「空気」を取り込む量、「飲み物」「食べ物」を摂取することにより、体の中に取り込む放射性物質を減らすことが重要となります。
また、放射性物質が体の中に入ってしまった場合は、体の外への排出を促すことが大事になります。
放射線を浴びた場合、浴びた線量が多くなるほど発症する確率が上がる「確率的影響」と、一定線量以上の被ばくを受けると必ず発症する「確定的影響」があります。
放射線を浴びたからと言って、誰もが病気(がん等)になるというわけではありません。
ただし、放射線を全く浴びなかった場合に比べると、がんになる確率が高くなります。これを「確率的影響」といいます。
(※ 現在の地球には自然放射線がありますので、放射線を全く浴びずに生活するということは不可能です。)
浴びた放射線量が一定の数値を超えると発生する症状があり、これを「確定的影響」と言います。
(例:目の水晶体の場合、1回あたり2グレイ以上の放射線を浴びると「水晶体の混濁」が、1回あたり5グレイの放射線を浴びると「白内障」が起きると言われています。)
現在、普通の生活を送る上で、確定的影響の症状が現れるほど放射線を浴びることは、がん治療などの医療目的の大量照射などの例外を除けば、まずありません。
しかし、放射線を浴びると、がんになる可能性が上がりますので、できる限り不必要な放射線を避けることが大切です。
大分県では、県内の5箇所(大分市2箇所、日田市、佐伯市、国東市)にモニタリングポストと呼ばれる測定機器を設置して、大気中の空間放射線量率(放射線量)を24時間連続で測定しています。
また、原子力規制委員会から「環境放射能水準調査」を受託して、以下の物に含まれる放射性物質の量についての調査を行っています。
試料の種類 | どんな試料? | 調査頻度 |
大気浮遊じん | 大気中に浮遊している、「ちり」や「ほこり」の中に含まれる放射性物質の量 | 年に4回 |
大気降下物 | 地上に降ってきた「雨」や「ちり」の中に含まれる放射性物質の量 | 毎月1回 |
上水 | 水道水の中に含まれる放射性物質の量 | 年に1回 |
土壌 | 土の中に含まれる放射性物質の量 | 年に1回(2検体) |
精米 | お米に含まれる放射性物質の量 | 年に1回 |
野菜類 | 野菜類に含まれる放射性物質の量 | 年に1回(2検体) |
牛乳(原乳) | 牛乳に含まれる放射性物質の量 | 年に1回 |
詳しくはリンク先をご覧ください。
次のリンク先をご覧ください。
こちらのサイトで詳しく説明していますので、ご覧ください。
人体への影響は、「放射性物質の化学的な性質」や「放射線の種類」などによって決まります。「自然にある放射線」と「人工的な放射線」による違いはありません。
トリチウムは、「三重水素」とも呼ばれる水素の放射性同位体です。陽子(1個)よりも中性子(2個)の数の方が多く、エネルギー的に不安定な状態にあります。
これを解消するため、2個の「中性子」のうちの1つが「陽子」1個と「電子」1個に変わって、「2個の陽子」と「1個の中性子」の原子核を持つヘリウム3(放射性核種ではないヘリウム原子)になります。この際、行き場を失った「電子」がベータ線として外に放出されます。
放出されるベータ線のエネルギーは低く、体の中に入った場合も生物学的半減期が短いため、通常の日常生活を送る上では、比較的被ばく量が少ないと言われています。
種類 | 起源 | 物理学的半減期 (放射性物質の放射能が半分になるまでにかかる時間) |
生物学的半減期 |
放射する放射線の種類 | 備考 | |
トリチウム | 水素の放射性同位体 |
・原子力発電所等 |
約12.3年 | 約10日 | ベータ線 | 放出するベータ線のエネルギーは低い。水分子に含まれる形で存在することが多い。 |
健康を保つためには、バランスの良い食生活をすることが最も大事です。
野菜に含まれるカリウムは、高血圧の原因となるナトリウムを体の外に出すことを促してくれますので、健康を保つためには必須の栄養素です。
野菜や果物を食べる量が少ないと死亡リスクが上がることが多くの研究で示されていますので、食物アレルギー等がなければ、野菜や果物を食べるのを控える必要はありません。
「(1)細胞分裂の頻度が高い (2)将来行う細胞分裂の数が多い (3)形態・機能が未分化なもの ほど放射性感受性が高い」という法則(ベルゴニー・トリボンドーの法則)が知られています。
感受性の程度 | 組織 |
高い | ・リンパ組織(胸腺、脾臓) ・骨髄 ・生殖腺(精巣、卵巣) |
↑ | ・小腸 ・皮膚 ・毛細血管 ・水晶体 |
中程度 | ・肝臓 ・唾液腺 |
↓ | ・甲状腺 ・筋肉 ・結合組織 |
低い | ・脳 ・骨 ・神経細胞 |
一部の火災報知器(イオン化式感知器)には、「アメリシウム241」というアルファ線を出す放射性物質が使われています。アルファ線は、紙1枚でしゃへいできますので、通常の使用状態では、人の体に悪影響を与えることはありません。
ただし、不要になった場合には、普通のごみとして処分することはできません。必ず製造会社または公益社団法人日本アイソトープ協会にご相談ください。
一部の夜光時計には、塗料として「トリチウム」が使われている場合があります。Q4に書いてあるとおり、トリチウムから発生する放射線のエネルギーは低いので、被ばくする危険性は低いと思われます。
ご不安な場合は、どのような製品なのか販売元に確認することをお勧めします。
人工放射線による被ばくの限度を1ミリシーベルト以下にすることについては、ICRP(国際放射線防護委員会)という国際機関が1990年に勧告したものであり、以下のような考えで設定されています。
空間放射線量率が変動するのはさまざまな原因がありますが、いくつか紹介します。
(1) 空間放射線量率が上げる原因
空気の中をただよっている「ちり」の中には、天然の放射性物質(ラドンの娘核種など)が含まれています。
雨が降ると、「ちり」が地面に落ちてきますので、空間放射線量が一時的に高くなります。
(2) 空間放射線量率が下がる原因
雪が積もると、地面からの放射線がさえぎられるため、空間放射線量率が一時的に低くなります。
※ 「娘核種」とは、放射性核種(放射性物質)が、放射線を出して壊れたときにできる新しく核種(物質)のうち、放射能を持っているものをいいます。
原子力規制庁の指示により、 地上に降ってきた「雨」や「ちり」の中に含まれる放射性物質の検査を毎日行うことになる予定です。
検査結果については、原子力規制庁のページで公開する予定です。