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【井口アナ】
去年10月に広瀬知事が引退する意向を表明されましたが、境社長はこの情報を聞いてどう思われましたか。
【境社長】
やっぱりかという思いですかね。
昨年4月に知事に講演をお願いした際、去就について伺ったときに勇退も考えているのかなという気がしました。ただ、講演は意欲満々の口ぶりで、五分五分かなとも感じました。
【広瀬知事】
ぎりぎりまで悩んだのは事実ですね。正直言って足腰が弱って、自由にいかないところがあり、ご迷惑をかけるかなと。未練がましいと思われても嫌だし、と引退を発表しました。
【境社長】
その理由を聞いたときに、もったいない気がしました。車いすを使えば全く問題ないんじゃないかなと。戦時中のアメリカの大統領フランクリン・ルーズベルトは小児まひの後遺症で車いすでした。大分県は大分国際車いすマラソンが世界的にも有名ですし、障がい者雇用率日本一を目指している県で車いす姿の知事がいたら、むしろ勇気を与えるんじゃないかと思ったぐらいです。
【広瀬知事】
確かに車いすで頑張っている方もたくさんいるのに、自分だけ逃げるようで大変申し訳なく思いました…。20年間皆さんに支えていただいたこと、心から感謝しています。
【井口アナ】
やはり広瀬県政のスタートは行財政改革でしょうか。
【広瀬知事】
公約で掲げていたわけではないですが、知事になり、早晩、財政再建団体に追いやられることが見えてきたのですぐ手がけました。
行財政改革は難しいように見えますが、要は「歳出をできる限り減らすこと」と、「歳入をできる限り増やすこと」です。
歳出のカットは、まず、大規模な施設で役割を果たしたものなどの廃止や効率的にできるものは民間委託したこと、指定管理制度などの工夫でだいぶお金が浮いてきました。
もう一つは、職員の定数、給与の見直しです。学校は少人数学級の導入時期でむしろ先生が足りないこと、警察官は安全・安心を担うことからあまり手を付けませんでしたが、退職不補充で相当人数が減りました。改革前と今の定数を比べると2,359名の減で、しかも、若返って給与が減るので、1年間に320億円ぐらいカットでき、随分早く行えたので効果が大きくなりました。
また、歳入確保は、一つは税金を理解して納めていただくための取組の強化。もう一つは、大きな施設のネーミングライツ導入。この新たな収入は県に毎年入るので大変助かりました。
【井口アナ】
こうした財政の立て直しを全国の自治体と比較したときに、境社長はどう評価されますか。
【境社長】
さすが官僚出身の知見を発揮して、1期目から改革を軌道に乗せたのは、大きなポイントだと思います。
平成の市町村合併では、確か58市町村を18まで減らしたんですよね。全国でも減少率はトップクラスだと思います。統合された自治体の衰退を招いた面はあるかもしれませんが、あの改革は大きかったなという気がします。
【広瀬知事】
市町村合併は行政サービスの維持・向上のためということでご理解を得ました。その後も人口減少が続き、なかなか思うようにならないのは悩ましいですけど。
【井口アナ】
教育改革にも取り組んでこられましたよね。
【広瀬知事】
2008年に教育委員会の不祥事が明らかになり、国から人を派遣してもらい、知事部局からも人を派遣して、明るく風通しのいい教育委員会を目指しました。
また、当時は小学校、中学校の学力や体力があまり芳しくなく、改善に取り組みました。おかげで今や学力は九州の中でトップクラス、体力は全国でも高い方になりました。
【井口アナ】
経済の活性化にも力を入れてこられた印象があります。
【広瀬知事】
中小企業の支援組織である商工会議所や商工会に多岐にわたり応援してもらっています。実は全国の商工会議所、商工会は会員を減らしていますが、大分県ではむしろ増えています。
また、新しい事業のプランを出す、ビジネスプラングランプリでは、今まで賞を得た92社のうち約7割が売上げを伸ばすなどの成果を出しています。
創業数は、最初は2、3年で約1,000件でしたが、今は1年間に500から600件がスタートアップしていて、創業者の30%が女性です。
【井口アナ】
先端技術などの新分野に挑戦することも進められましたよね。
【広瀬知事】
ドローンやアバターを見て、ICTと一緒になると地方の課題の助けになるかもしれないなと思いました。
宇宙港の話では、宇宙飛行士の山崎直子さんと対談する機会があり、宇宙への関心も随分湧きましたし、山崎さんも大分県は面白いと思ってくれたんじゃないでしょうか。
【境社長】
私も知事が大分県のセールスマンとして陣頭指揮を執り、東奔西走していた印象を持っています。
2021年度の企業誘致件数がコロナ禍という逆境の中で過去最高でした。企業誘致は自治体の支援が大きく影響し、集積が集積を呼ぶ面があるので、ぜひ続けてほしいなと思います。
【広瀬知事】
半世紀前に先人が苦労して大分に誘致したコンビナートが核になって、半導体、自動車など世界でやっていける大企業が来て、県民生活も豊かになってきているので、大事にしていかなければと思いますね。
【井口アナ】
ラグビーワールドカップをはじめ、知事ご自身が思い出深かったイベントをお聞かせください。
【広瀬知事】
2008年の国民体育大会、全国障害者スポーツ大会は、皆さんが積極的に参加してよかったなと思っています。
ラグビーワールドカップもよかったなと思います。飲み屋などで外国人の皆さんと肩を組んで、旧知の仲みたいに大騒ぎをして、外国にいるのかと思うぐらいでした。
そのほか、大分国際車いすマラソンは大分県の宝にまでなってきたなと思います。
【境社長】
ラグビーワールドカップでは知事の剛腕と人脈を見せつけられました。
スポーツイベント以外では、例えば、大分は日本での西洋音楽の発祥の地ですし、別府アルゲリッチ音楽祭という、特にピアノファンにはたまらない演奏会がありますけど、芸術文化関係は何が印象に残っていますか。
【広瀬知事】
知事に立候補しますと先輩にごあいさつに行ったときに、「広瀬君、文化のことだけはちょっと心配なので言っておくから。別府アルゲリッチ音楽祭は大事にしなきゃいけないよ。」というお話があり、とにかくこれは大事にとやってきました。
そのほかに2018年の国民文化祭、全国障害者芸術・文化祭などがありました。昨年は、大分県と韓国の慶州市、中国の済南市、温州市で開催しました、東アジア文化都市2022もありましたね。
また、県立美術館を造るきっかけは、県の芸術協会の皆さんから「一度、県美展を観に来てください」との話があり観に行ったこと。当時会場だった芸術会館の天井に届かんばかりに美術品を陳列しており、「こんな所で県美展を開催するのは恥ずかしいですよ」と無言のプレッシャーを受け(笑)、行革の成果も出ていたので早速建てました。
【境社長】
なるほど。お話を伺い、幅広い分野でバランスの取れた政策の総合力を上げてこられたんだなという印象を持ちましたね。
例えば、知事は特に豪雨災害で久大線が寸断されたときも、地元選出の国会議員を使わずに50億円の復興予算を引っ張ってこられました。風水害に限らず危機管理はかなりしっかりやられたなと。
【広瀬知事】
知事の仕事で一番大事なのは危機管理ですね。何かあったときに県がすぐ動いているという安心感は非常に大事な県政の要点だと思いますね。
【井口アナ】
知事が一番大切にしてきた政治信条は何でしょうか。
【広瀬知事】
一つは、県民の皆さんからよく話を聴く、対話と現場主義に裏打ちされた、県民中心の県政をやることです。
もう一つは、政策県庁、NOと言われない県庁であれ、です。県民が困って来たときに、残念ながら予算がありませんなどと言うだけなら何も要らない、よくよく考えるべきじゃないかと。
【境社長】
知事の丁寧な姿勢が県民の信頼感につながったのかなと思いました。
大分合同新聞社の県民世論調査を振り返ると、県教委の汚職のときを除き、80%ぐらいの高い支持率で、全国的に見ても県民の支持率が高い知事だと感じました。
ただ、最初から県財政を立て直し、失政もほとんどないと、周囲が知事に頼りがちになる雰囲気が出てきかねないと思います。県内の市町村長は県庁OBが結構多く、そういう意識が芽生えるのも仕方ない面があるのかなと思いますが、いかがですか。
【広瀬知事】
市町村長さん、自分自身の考えでしっかりやってくれていますよ。加えて、最初の選挙では、相手候補から官から官でいいのかと攻撃を受けましたが、上から目線など官僚的にならないよう取り組んだのも非常によかったと思っています。
【井口アナ】
お二人が描くこれからの豊かな大分を教えてください。
【広瀬知事】
新しい知事は、自信を持っておやりになったらいいと思いますが、一県民として幾つかリクエストします。
一つは地方創生ですね。企業誘致、移住・定住という社会増減も勘案しながら、とにかく人口を増やしていくことです。一番大事なのは、大分県は大変住みやすいところだと思ってもらうこと。そのためにも子育て満足度、健康寿命、障がい者雇用率の三つの日本一実現に向けた取組をぜひ続けていただきたい。
二つ目は、カーボンニュートラルです。難しい課題ですが、これを乗り切ると、ますますものづくり産業が集まってくるので、それに適合できる県にしてもらいたい。
最後は、先端技術のさらなる前進です。宇宙に関しては、水平型の人工衛星打ち上げなどの先に高速2地点間移動があり、大分から宇宙経由でニューヨークまで30分で行ける世の中が来るそうです。若者を定着させるためにも夢を追う大分県であればいいなと。
【境社長】
どれも非常に大きな挑戦でやりがいがあるので、後任の知事には、ぜひ承継、発展させてほしいです。 こういう壮大なビジョンがあると、子どもたちはもちろんですが、県民の皆さんに非常に大きな希望を与えることができます。
【井口アナ】
境社長が描く大分の未来はいかがでしょうか。
【境社長】
まずは、教育の充実です。経済的理由で進学を諦める子どもたち、中には給食費の納入さえ困難なご家庭が結構あります。児童養護施設出身者の進学率も相変わらず低いです。教育の機会均等は公正な社会の土台で、格差をなくすためにも必要です。勝手なことを言うと、卒業後も大分県に残るなら、学費を全額免除する大学が一つぐらいあってもいいという気がします。
それと、コロナ禍をきっかけとしたワーケーションなど地方回帰の流れをうまく取り込んでほしい。宇宙港の話も出ましたが、国東半島は大分空港があるし、別府にも近い絶好の場所だと思うんですよね。
最近は、ワーケーションの場所も地元のコミュニティとのつながりを大事にする傾向が徐々に出てきていると聞きますから、迎える側の地域への支援もしてほしいです。
【広瀬知事】
そうですね、特に一つ目の教育の機会均等は、子どもの貧困、ヤングケアラー、不登校などが大きな問題となってきていますので、大人の世界がしっかりとやらなきゃいけないと思いますね。
本日は、大分に思いを馳せる「心の旅」にご同行いただき、ありがとうございました。