解雇とは、労働契約を将来に向かって終了させる使用者からの一方的な解約の意思表示をいいます。
◇「懲戒解雇」 労働者に解雇の原因がある場合
◇「普通解雇」 労働者に解雇の原因がない場合
◇「整理解雇」 事業の縮小や経営の合理化等に伴う解雇(普通解雇の1つ)
解雇の種類で法律上の効果や対応等が異なってきますので、注意が必要です。
◆ 労働契約を終了させる意思表示には、解雇のほか、雇止め、任意退職(労働者が自らの自由な意思に基づき一方的に退職すること)、合意解約(労働者と使用者の合意による労働契約の解除のこと)があります。
[1]法律上解雇が禁止されている場合
- 業務上の負傷・疾病による休業期間とその後30日間の解雇。【労働基準法第19条第1項】
- 産前産後の休業期間とその後30日間の解雇。【労働基準法第19条第1項】
- 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇。【労働基準法第3条】
- 労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇。【労働基準法第104条】
- 労働組合を結成したり、組合活動を行ったことを理由とする解雇。【労働組合法第7条】
- 労働者の性別を理由とする解雇。【男女雇用機会均等法第 6条第4項】
- 結婚・妊娠・出産したこと、産前産後休業の取得、母性健康管理措置を受けたこと等を理由とする解雇。【男女雇用機会均等法第9条】
- 育児休業、介護休業の申出や取得を理由とする解雇。【育児・介護休業法第10条、第16条】
- 公益通報をしたことを理由とする解雇。【公益通報者保護法第3条】
[2]解雇権の濫用(労働契約法第16条)
また、労働契約法では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(第16条)と定められています。
解雇事由の定め
就業規則には、解雇の事由について必ず記載しなければなりません。【労働基準法第89条】
[1]解雇予告・解雇予告手当(労働基準法第20条)
◇使用者が労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をします。
◇即時に解雇する場合は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
[2]解雇手続きが省略できる場合
次の場合は解雇手続きが省略できます。
◇天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合
◇労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合
その場合には、労働基準監督署長の認定を受けなければなりません。
[3]解雇手続きが省略できる労働者
◇次の労働者には、解雇の手続きは不要であるとしています。(労働基準法第21条)
- 日々雇用される人で、継続して使用される期間が1か月以下の労働者。
- 2ヵ月以内の期間を定めて使用される労働者で、その期間を超え、継続して使用されることのない労働者。
- 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される労働者で、その期間を超え、継続して使用されることのない労働者。
- 試の使用期間中の労働者で、その期間が14日を超えていない労働者。
整理解雇については、下記の4つの要件を満たしている必要があるとされています。
[1]解雇の客観的な必要性
客観的に整理解雇をしなければならないほどの十分な経営上の必要性があること。
[2]解雇回避の努力
整理解雇を行うまでに、希望退職者の募集、配置転換、出向など、解雇を回避するための努力が充分に尽くされていること。
[3]人選の基準・適用の合理性
解雇される労働者を選定する基準が合理的なものであり、かつその運用もまた合理的であること。
[4]事前の労使協議
整理解雇の必要性、時期、方法、規模、人選の基準についての十分な説明など、使用者が労働者から納得を得るための真剣な努力を行っていること。
[1]退職勧奨
「退職勧奨」とは、使用者が労働者に対し、「辞めてくれないか」「退職を考えて欲しい」と言うなど、「合意解約」を申し込んだり、申し込みの誘因を行うことをいいます。
退職勧奨において、労働者は勧奨に応じるかどうかを自由に意思決定でき、退職勧奨に応じる義務はありません。
解雇は、使用者の一方的な意思表示であるのに対し、退職勧奨は「申し込み」にすぎず、応じるか否かは労働者の意思によることに留意しましょう。
[2]希望退職の募集
人員整理の必要に迫られた企業が、最終手段である整理解雇の前段の措置として行うものとして「希望退職の募集」があります。
一般に、この方法は、通常の退職条件よりも有利な条件を設定し、労働者からの退職の申込みを誘い入れるものですが、退職勧奨と同じように、退職については、あくまでも本人の同意が前提となります。
[1]有期契約中の解雇禁止
期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合、その期間の途中での解雇は原則としてできません。
[2]有期契約中の解雇の例外(労働契約法第17条 民法第628条)
例外として、「やむを得ない事由」があるときに限り、労働契約の解約の申し入れができることとされています。
労働契約法第17条では、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」とされています。
また、民法では、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由あるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。」(第628条)とされています。
[3]損害賠償
有期労働契約中は、労働者、使用者のやむを得ない事由で契約を解約する時、当事者の一方に過失がある場合は、損害賠償責任が生じます。(民法628条)
[4]派遣先の契約解除と派遣労働者の解雇
派遣労働者については、派遣先が派遣元との労働者派遣契約を中途解約しても、派遣労働者と派遣元との労働契約は継続しているので、直ちに解雇につながるものではありません。派遣労働者を解雇する場合に事業主が講じなければならない措置については、「派遣元(派遣先)事業主が講じるべき措置に関する指針」を参考にしてください。
新規学卒者のいわゆる採用内定取消しの問題については、遅くとも企業が採用内定通知書を発し、学生から入社誓約書又はこれに類するものを受領した時点で一般的には労働契約が成立したと見られる場合が多いと考えられています。
この場合において、採用内定を取り消すときは、合理的な理由の存在や労働基準法上の手続きが必要となります。
【代表的判例】
代表的な判例として、大日本印刷事件(最高裁二小、 S54.7.20)がありますが、この中で、最高裁は、採用内定通知とその後の求職者の誓約書の提出により、卒業できないことその他一定の事由による解約権を留保する労働契約(始期付き解約権留保付労働契約)が成立したと解するのが相当であるとしています。
[2]厚生労働省「新規学校卒業者の採用に関する指針」(H5.6.24)
使用者の考慮すべき事項
- 「採用内定の時点で労働契約が成立したと見られる場合には、採用内定の取消しは労働契約の解除に相当し、解雇の場合と同様、合理的な理由がない場合には取消しが無効とされることについて、事業主は十分に留意するものとする」
- 「事業主は、やむを得ない事情により、どうしても採用内定取消し又は入職時期繰下げを検討しなければならない場合には、あらかじめ公共職業安定所に通知するとともに、公共職業安定所の指導に従うものとする」としています。
「新規学校卒業者の採用に関する指針」の内容はこちらから→
PDFファイルへのリンク