本文
2023年度は全28点の応募があり、最優秀賞1点、優秀賞5点、入賞3点の計9点が受賞されました。
建築主をはじめ、設計者、施工者、それぞれのこだわりが感じられる素晴らしい作品でした。
【審査基準】
・木の素材を生かした意匠等
・建築物の美しさ、街並みや景観との調和・優れた建築技術
・環境への配慮
・建設コスト縮減への工夫
・建築物の機能性、プランニング、ユニバーサルデザイン
【選考委員】
委員長 末廣 香織 (九州大学人間環境学研究院 教授)
委 員 有馬 晋平 (造形作家)
川田 菜穂子(大分大学教育学部 教授)
志賀 和美 (有限会社堀木材 取締役)
柴田 建 (大分大学理工学部 准教授)
八坂 千景 (iichiko総合文化センター企画普及課 副課長)
受賞された9作品をご紹介いたします。
所在地:別府市
用 途:大学
建築主:学校法人立命館
設計者:竹中工務店
施工者:竹中工務店
延面積:6495.95平方メートル
学生教職員の半数3,000名が世界106か国から集まる国際大学のサステナビリティ観光学部の新設をうけた教室棟。日本初の準耐火木造による大規模な3層吹抜を中心に、多様な文化をもつ学生・教員・地域が集い、助け合い、成長する森のような空間を目指した。
学生教職員・地域の人々が、家形が連なる集落のような親しみのある外観により引き込まれる。木造吹抜空間に多様な個性・活動が集い、互いに刺激し合うことで新しい学びの価値を創出する。また、地域課題である蓄積する杉の非住宅活用モデルに挑戦した。主要構造体(柱、大梁)はすべて県産材とし、木あらわしの燃えしろ設計により、特殊な加工を不要とした。九州圏内にて調達・加工を完結させ合理的な建設モデルを確立するとともに、大分県内初のFSCプロジェクト認証も取得した。
生きた教材となる木造校舎は、地域を育み世界を変える人を育てるサステイナブルなキャンパスを実現する。
国際色豊かな大学の新学部のために作られた教室棟です。施設の顔となっているGreen Commonsは、大規模ながらも新しい建築基準を用いて木造で作られています。大きな階段状の吹き抜け空間を中心として、その周りに多様な性格を持つ小さな場所たちがちりばめられていて、木のぬくもりを感じながら、視覚と聴覚を使ったコミュニケーションが自然と生まれるデザインがされています。実際にここは、様々な学生たちが、自由に居場所を見つけて学び、集い、交流する場として、とても生き生きと使われていました。それ以外にも、アクティブラーニングを実践し学習できる多目的ホール、新しい概念のインクルーシブなトイレ、出入口まわりのたまり場、木材や竹などを使った家具やサインなど、細かな部分まで丁寧に考えて作られており、それがこの建築の個性と魅力を形作っています。国籍、文化、宗教、ジェンダーなど、多様な背景を持つ学生たちが、自由で、創造的に学ぶことができる、新しい学校の姿を示していると感じました。
所在地:別府市
用 途:住宅
建築主:個人
設計者:柳瀬真澄建築設計工房
施工者:有限会社筑羽工務店
延面積:162.40平方メートル
敷地は別府市中心部。西側は駐車場越しに大通りに面し、周辺は新旧の建物が雑多に混在する。両親の住む敷地内北西にあった座敷と玄関、及びその前の庭を撤去しての計画である。
西側道路からの騒音とプライバシーを守りつつ、既存母屋と適度に向き合うよう、住宅棟と仕事部屋をL型に配した。2棟の片流れの屋根を一続きとし、デッキにパーゴラを設け、それらを囲むようにふんだんに植栽を施し、敷地内に新たなコートハウス的な構成となるよう図った。庭との繋がりを活かしつつ、住宅棟、仕事部屋、パーゴラが、適度な間合いとバランスを保つことによって、どこにいても家族の気配と、様々に移りゆく自然を感じる心地良い暮らしの場となるよう意図した。
住宅棟は、南庭側は木梁を表しとした1.5階分の気積を持つ主室、北側を水回り、階段、個室とし、木製格子戸で緩やかに仕切っている。仕事部屋は、門扉傍の南端に配し、生活空間とは廊下を介した離れとし、開放的なコーナー窓により緑を眺めながらの仕事を可能としている。仕事部屋、住宅棟とも、内部は主には木質と漆喰、外部はシラス壁仕上げとし、ナチュラルで穏やかな落ち着きのある空間となっている。
また両親の暮らす母屋との関係を考慮し、建築前の趣を残すよう配慮し、新しくも懐かしい空間を保つよう注力した。
所在地:大分市
用 途:住宅
建築主:個人
設計者:伊藤憲吾建築設計事務所
施工者:朝来野工務店
延面積:85.97平方メートル
●災害に対しての構成:近年の災害は気候変動などの原因により年々被害が深刻化しており、土木インフラの整備も追いついていない。そのため、自助による防災も必要になってきた。本地域もハザードマップにより浸水の危険性があることがわかり、その対応として高基礎とし現代版の高床式住居の様相とした。床の高さが上がることに対してスキップフロアとして上下階への移動を気軽にできるようにしている。
●環境に対しての構造:設計時期がウッドショックと重なったこともあり、すべての構造材を国産の杉材にした。全体の構造計画は北側に袖壁状の耐震壁を集中させることにしている。これは耐力壁を合理性高く配置することでスケルトンインフィルを明確にし、空間の自由度を上げるためだ。構造計算上330 mmを越える梁せいが必要となったが、国産の杉材では240mm以上は流通が少なく、資材確保は難しい。そこで梁を二本抱かせることで応力を分散し、240 mmの梁せいに抑えることが可能となった。加えて、外張断熱を採用することで躯体保護を行うことにしている。
●まちに対しての姿勢:1階の作業場は、施主自身が仕事をする場所でもある。グランドレベルに大きな開口部と木材を表すことで、近隣に対して開放的で朗らかな表情となった。それは施主自身の朗らかな表情ともつながっているように感じる。まちは建築で出来ている。人の顔が見える景観に貢献できたと感じている。
所在地:大分市
用 途:住宅
建築主:向 智美
設計者:シーナリーハウス+IFOO
施工者:シーナリーハウス
延面積:99.94平方メートル
本建物は大分市街から離れた集落にある母親が暮らしていた住宅の建替えである。
木造平屋の住宅と車庫を一体として作り、屋根面を3つに分けることで、シンプルなプランながらも環境に調和しつつ、目の惹く外観デザインを意図した。
東西に長いプランであることから、建物中心付近に光を取込めるヒノキの外壁材を張った中庭を計画することで、隣接する各室は、日中の照明の使用を抑えられる明るい空間になるように計画した。
キッチンは料理好きなお施主さんの要望を盛込んだアイランド型の造作キッチンとし、内部空間との統一感を図り建具と同材のオーク材として計画した。(天板はメンテナンス性に配慮し、ステンレス製とした。)
80代の母親の将来的なことも考慮し、車椅子での移動に支障のない開口部やプランニング計画を行った。
外構は、道路に面する既存の梅の木を生かしつつ、以前から付合いのある周辺の方が気軽に入って話ができるようにリビングダイニングに向かう外部導線上に踏石を設ける計画とした。
所在地:国東市
用 途:チャレンジショップ他
建築主:国東市
設計者:株式会社塩塚隆生アトリエ+下村正樹建築設計事務所
施工者:株式会社 菅組
延面積:チャレンジショップ棟・渡り廊下・屋外トイレ 291.19平方メートル
テレワーク棟 478.14平方メートル
神仏習合の地として歴史や文化が息づく国東半島の東部に位置し、大分の玄関口・空港を有する国東市の鶴川地区は、敷地正面の櫻八幡神社を中心に商店街として栄えたが、近年の衰退に対しこれからのまちのあり方を模索する事業を進めていた。拠点施設は、その実践となるプロジェクトである。
敷地は里道をはさみ、新築するチャレンジョップ(CS)棟と、地区120年のかつての診療所である古民家を改装したテレワーク(TW)棟の2区画に分かれ、その間を屋根付きの歩廊で繋ぐ。配置は歩廊を参道に見立て、神社の配置を参照することで地域との親和性を持たせた。
CS棟は、2,730×2,730 をモデュールとした格子状の空間で、出店の規模に合わせて1~5区画に変更できるようガラスの引き戸で仕切られている。上部の欄間部分は開放し、区画をしても一体感を損なわないようにした。
Tw棟は、1 階の床組を撤去し、構造補強を兼ねて土間コンクリート仕上げに変更。それによって生じる縁側など既存の床とのレベル差が、腰掛になりスペースの使い方を誘発したり、新たな活動のきっかけとなっている。また、2階の天井仕上げを撤去し小屋組みを現しにすることで、吹き抜けを介して空気の循環や光の伝搬など,120年を経て建物全体が呼吸をしはじめた。
一方で、105幅の杉材によるプレカットと現代的な金物によって構成されるCS棟。太く荒々しい丸太や角材の原初的なTW棟の木組(きぐみ)。これら、現在と120年前、それぞれの技術のせめぎ合いを体験できる、地域の歴史を横断する建築でもある。
所在地:由布市
用 途:宿泊施設
建築主:有限会社榎屋
設計者:株式会社塩塚隆生アトリエ
施工者:株式会社奥田組
延面積:964.59平方メートル
■湯布院温泉の中心部にある既存旅館の増築・改修工事。RC造のエレベーター棟増築に加え、既存鉄骨造3階建ての本館棟及び木造平屋建ての茶房棟の内外装大規模改修を行った。
■由布岳を背景に臨み、川向かいには地域を代表する名旅館の緑豊かな庭の緑が借景となる恵まれた景観の中にある。また、この旅館が建つ大分川沿いの通りは、多くの観光客が行き交う「湯ノ坪街道」の1本裏手に位置し、その並びにはいずれも「焼き外壁」や黒く着色された「木板外壁・板塀」を持つ複数のアート関連施設が立ち並び、丁寧にデザインされた植栽の緑とあいまって、落ち着きのある上質な景観が広がっている。
■外観改修:既存外壁を濃灰色で塗装し。瓦屋根・化粧軒はそのまま利用しつつ、軒先に断面寸断75x150のヒノキ材木製ルーバーを設置した。ルーバーは防腐剤注入加工の上、浸透性塗装で黒に着色。これにより、外観の表情を一新させた。ルーバーは開口部の有無や法規的要件などの諸条件を整理しながら、ランダムパターンとすることで、有機的な表情が生み出された。改修後は、建物と由布岳をバックに記念撮影をする姿が見られるようになった。
■内装改装:木毛セメント板やモルタルなどの硬質な内装仕上に対し、無垢の杉材のラインを活かした建具や造作・家具を配し、異なる素材が対話し調和する魅力的なコントラストの空間を目指した。
所在地:日田市
用 途:住宅
建築主:個人
設計者:小島健治アトリエ(コージーリトル)
施工者:ザイツ建築株式会社
延面積:92.74平方メートル
光岡の家は、4人家族のための28坪で構成される小さな家。大分県日田市は、内陸性特有の性質から寒暖の差が激しく、夏は35度以上の真夏日を記録することも多いため、全国のニュースで取り上げられることも多い。その暑い夏の日差しを避ける南側の深い庇、暖かい冬の日射を取り入れる大きい窓。この条件を満たすとても快適なリビングの大開口を設けることが最大の課題であった。このリビング空間のための屋根が、この家の屋根勾配を作り出す基準になっており、屋根を登り梁で構成することでダイナミックな空間とすることができた。リビングの暖炉前は汚れやすいので、基礎断熱をしっかりとしたモルタル仕上げ。冬は素足でも暖かく、夏は涼しく過ごすことができる。構造はプレカットではなくすべて継手・仕口で行い、仕口を考慮した構造計算により地震等級3も獲得している。 また、寝室を抜ける風の通り道を作ることが施主からの要望で、玄関の横の通風用木窓を開けると寝室まで風が抜け、さらに2階窓を開けることで、温度差換気も行うことができる。木造表し、オール木サッシの構成で、ほぼ手作りの家になっており(既製品はキッチンとUB)外壁に日田産の杉、床は日田産ヒノキ、一部土間に日田石など地元産の素材と天然素材にこだわり、地産地消及び伝統工法の技術継承に貢献できた。
所在地:宇佐市
用 途:事務所
建築主:宇佐市
設計者:株式会社山下設計
施工者:末宗組・下村建設特定建設工事共同企業体
延面積: 2,997.58平方メートル
【木の素材を生かした意匠等】地元産製材による木造の架構を現しとして、木の素材を最大限に活かした意匠とした。
【建築物の美しさ、街並みや景観との調和】地域に向かって大きく開き、市民に親しまれ、まちのランドマークとなる木造公共施設とした。
【優れた建築技術】地元の力で地元産製材の組合せによって、木造の公共施設を実現した。
【環境への配慮】自然エネルギー(光・風・熱)を活用して、快適な室内環境を実現した。
【建設コスト縮減への工夫】エンジニアリングウッド(集成材)の使用を最小限とし、木造の構造体にかかる費用を縮減した。
【建築物の機能性、プランニング、ユニバーサルデザイン】「文化・観光・交流の拠点となるみんなの家」となるよう、交流ギャラリー(吹抜け空間)を中心とした回遊性のある建物を実現した。
所在地:大分県臼杵市
用 途:トイレ他
建築主:臼杵市
設計者:株式会社翔設計室一級建築士事務所
施工者:株式会社佐々木工務店
延面積:60.93平方メートル
週末には市内外からの利用者で賑わう、臼杵市総合公園内にある子ども広場のレストハウスの計画である。既設のトイレに加え、より子育て世代、とりわけ遊びの主役である子どもたちの利用に主眼を置いたトイレを設けたいという市の企画から計画はスタートした。広場には多様な「静」と「動」の空気が同時に存在している。夢中で駆回る子ども、それを見守る保護者、その傍らで眠る赤ちゃん、園路を談笑しながら散歩する地域の方々…この広場特有の自由な空気の流れや人の営みを極力滞らせずに、そっと寄り添えるような建築の在り方を模索した。
空間中央の大黒柱を支柱とした屋根は広場方向に仰ぎ傾けた日傘のように大きな日陰をつくり、下部のベンチと共に広場を見守れる憩いの空間を形成している。内部の区画壁は各利用者のモジュールに合わせた最低限の高さとし、見守りと防犯のバランスを調整しつつ、風通しや見通しの良さを遮らない造りとした。視覚的にも動線的にも行きどまりの無い空間計画には、子どもの自発的な遊びを邪魔しない「通過地点」としてのトイレ・休憩空間で在りたいという思いを込めている。
温かみのある無垢木の丸柱や杉板貼りの壁・軒天に包まれ、思う存分休んでは又駆けだして行ける、親子ともに居心地の 良い遊びのベースとなることを願い整備した。