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介護業界の未来を模索
1995年に設立した「社会福祉法人 安岐の郷」。「地域に愛され、地域に信頼され、地域に開かれた高齢者福祉のパイオニアを目指す」という理念のもと、国東市内で事業を展開しています。4カ所の拠点に「鈴鳴荘」「むさし苑」「松寿園」「元気館」と4つの施設を開設し、地域に根ざした福祉サービスを展開しています。また、職員が働きやすい環境づくりに高い評価を受け、2011年度には「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(子育て・家族支援部門)」において、内閣総理大臣賞を受賞しています。
本島亜香里さんは、「特別養護老人ホームむさし苑」の地域密着型特別養護老人ホーム(ユニット型)に勤務しています。ユニット型介護では、入居者を10名ごとのグループに分け、個別のケアを提供。居室は全室個室となっており、入居者同士の交流を大切にしながら、一人ひとりのプライバシーが守られ、各自のペースで生活できるのが特徴です。本島さんは介護リーダーとして利用者に寄り添う介護を実践しながら、職員の教育や指導にも力を入れています。
介護職を志したきっかけは、高校時代に友人と参加したボランティア活動でした。もともと介護の仕事は“3K”と呼ばれ、身体的にも精神的にも負担が大きいというイメージを持っていました。しかし、「実際に経験すると、楽しく働ける職場だと感じました。小学生のころから障がいを持つ同級生や親戚が身近におり、介護が生活の一部だったことも影響しているかもしれません」と振り返ります。この経験を通じて介護の道に進む決意を固めた本島さんは、岡山県の短期大学へ進学し、介護福祉士と社会福祉主事の資格を取得。卒業後の2005年に地元国東市へ戻り、「安岐の郷」に入職しました。
介護の仕事に就いてからは、人を相手にする仕事ならではの葛藤や、思いが空回りすることもありました。しかし、結婚や出産といった経験を通じて成長し、それらを乗り越えてきたそうです。本島さんは、「利用者さんの『ありがとう』の言葉が何よりの励みになります。高齢者介護の現場では大変なこともありますが、その中でも前向きな面を見つけられるようになりました」と語ります。
仕事と子育ての両立には不安もありましたが、妊娠中は安全面を考慮した業務への配慮があり、夜勤が免除され、一時的に役職を離れることが選択できるなど、働きやすい環境が整っていたといいます。特に、事業所内保育所が設けられていることが、キャリアを継続する上で大きな支えとなりました。「事業所内保育所は年中無休で運営されており、併設の介護施設には看護師も常駐しているため、急な体調不良にも対応してもらえ、安心して働くことができます。また、仕事が休みの日でも預けられるので、一人の時間を持つことができ、リフレッシュした状態で仕事に臨めました」と感謝しています。
現在、上のお子さんは中学生、下のお子さんは小学校4年生に成長。本島さん自身、学校行事やPTA活動に休まず参加できていることを、母親として誇りに思っているそうです。さらに「来年度はPTA役員を務める予定です」とうれしそうに語る笑顔が印象的でした。
「子育てしながら働くことがどれだけ大変か、身をもって実感してきました」。そう語る、高橋とし子理事長。長年、男性社会で働いてきた経験から、経営者になって「女性が出産後も安心して社会で活躍できる場をつくりたい」と、強く思うようになりました。
特に力を入れたのが、育児休暇制度と給与の改善でした。自身も出産後わずか2か月での復職を余儀なくされた経験があり、育児休暇の重要性を痛感していたそうです。また、介護職の給与の低さや過剰な負担にも問題意識を持っており、夜勤手当の引き上げや職員の増員を実施しました。経営面では、一時的に厳しい状況に陥りましたが、「職員が幸せでなければ、利用者に良質な介護は提供できない」という信念のもと、改革を推し進めたそうです。
一方で、介護現場の意識改革にも着手しました。以前は利用者に対して「友達のように接する」風潮があり、利用者の名前を「ちゃん付け」で呼ぶようなこともありましたが、高橋さんは敬意を持って接することを徹底しました。「改革を進める中で、年配の職員からは反発もありましたが、若い職員たちを中心に職場全体の意識が徐々に変わっていきました」と手ごたえを語ります。
また若い職員が増えてきたことで、周辺に保育園が少なく、子育て中の女性職員が働きづらい環境であることが浮き彫りに。そこで、2007年に事業所内託児所『すこやかクラブ鈴鳴荘』を開設しました。同施設は2019年から国東市の認可を受け、地域型保育事業(事業所内保育事業)として、地域内の子どもの受け入れも開始しています。
さらに、ワークライフバランスの充実を目指し、独自の休暇制度も導入しました。「ばあちゃんの出番です」という制度は、孫が生まれた職員からの要望で導入。祖父母が1週間の特別休暇を取得可能になりました。また、男性の育児休暇制度「とうちゃん頑張れ、パパ修行中」は、男性も積極的に子育てに関わるべきだという高橋さんの考えをもとに生まれたものです。加えて年1回、1週間の連続休暇を取得できる「リフレッシュ休暇」も導入しました。
これらの取り組みは、現在では他の事業所にも広がっていますが、当時は非常に先進的なものでした。その結果、同施設では出産を理由に退職する職員はほぼゼロとなり、働く環境は劇的に改善されたそうです。2011年度の「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰(子育て・家族支援部門)」における内閣総理大臣賞の受賞は、これらの他の事業所の規範となる活動が評価されたものです。
介護業界は依然として、深刻な人材不足などの問題を抱えていますが、高橋さんは「現場の声を反映しながら、職員が安心して働ける環境を整え、より良い介護サービスを提供し続けていきたい」と、さらなる改革への意欲を見せています。
企業名 | 社会福祉法人安岐の郷 |
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事業内容 | 介護・福祉サービス事業 |
設 立 | 1995年 |
所在地 | 〒873-0222 大分県国東市安岐町下山口58番地 |
TEL | 0978-67-2626 |
URL | https://akinosato.com/ |
※ 2025年3月現在