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夏休みのこと
大分県知事 広瀬勝貞
6月ともなれば、わがスペイン人の間では夏のバカンスの話題で持切りになります。何処に行く、誰と一緒、何をする、等々話は尽きません。
「バカンスだけは準備がいいね」とでも冷やかそうものなら、バカンスは生活を充実したものにする大事な行事なのだ、家族も皆楽しみにしているし、この際子どもたちにもいろいろ教えなければならないし、とバカンスと人生の濃厚な関係についてたっぷりと聞かされることになります。
スペインに赴任後初のバカンスの時でしたが、遠浅の海岸に小さな子どもを遊ばせてパートナーと海の家でお茶を楽しんでいたら、これまた海岸を散歩中のおばあさんがわざわざ砂丘を越えてやって来て、「この海は流れが速くて危ない、子どもを放っておいてはいけない」と注意してくれました。バカンスで教えられた第1号です。
日本でも夏休みは、少なくとも子どもにとっては、大事な人生のプロセスだったと思います。その時は気がつかなかったけれど、夏休みには楽しく遊び、学び、そして成長する機会を与えられたような気がします。大きい川をようやく泳いで渡りきったのも夏休みだったし、姉の真似をしてカンナを画いて絵に開眼したり(すぐに閉じてしまいましたが)、遊び疲れてゴロゴロしていたところで誰かに冒険小説を読んでもらって読書がおもしろくなったり、色々なことが思い出されます。
教育委員会の先生に、教育における夏休みの意義を伺ったら、児童生徒が自ら目標を設定し、その目標に向けて意欲的に過ごす良い機会であると言うことでした。そんな教育委員会のねらいを知っていたとは思いませんが、母は夏休みになると子どもに何をしたいか、しなければならないか聞いて、どんなスケジュールでそれをやるのか話し合って、計画を作らせてくれました。その計画通りに行った記憶はほとんどありませんが、目標を立てて努力する自律的な生活態度の涵養には役立ったような気がします。未だに計画倒れの癖も抜けませんが。
もう一つ、夏休みは親子のふれあいを増やしたり、地域行事等に参加して地域の人と仲良くなる良い機会であると思います。父親の仕事の関係で家族揃って旅行に行くということはあまりありませんでしたが、多数いた兄弟姉妹には結構鍛えられました。また、町内のラジオ体操や林間学校にもよろこんで参加させてもらい、良い社会勉強になったような気がします。
最近は、日本でも夏休みが普通になってきたような気がします。この年になると、夏休みと言えば子や孫が帰ってくる、「楽しみだ」、「大変だ」と受身になることが多いのですが、今年は久し振りに自分の目標を立てて充実した人生のプロセスとしていくことを考えてみたいと思います。そう思って考えてみると、気になっている本を読み直そうとか、思い出深いところに旅行に行ってみようとか、やりたいことは次々思い浮かびます。
皆さんも良い夏休みを。
県政だより新時代おおいたvol.107 2016年7月発行