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特集1 揺れる世界と変わる大分 

印刷ページの表示 ページ番号:0002149880 更新日:2023年1月17日更新

新春対談 揺れる世界と変わる大分 未来に届ける言葉 前編

 対談人名

【井口アナ】
 新年明けましておめでとうございます。
 新春知事対談として、お二人に激動の世界情勢の先行きなどについて議論していただきます。


【広瀬知事】
 明けましておめでとうございます。
 この対談、私にとっては長い知事生活の締めくくりになる大変感慨深いものになります。どうぞよろしくお願いします。


【井口アナ】
 対談相手を務められるのは時事通信社の境社長です。
 大分市出身で1959年生まれの63歳。大分舞鶴高校から早稲田大学を卒業後の1985年に時事通信社に入社。国内のみならず海外支局でもご活躍され、2020年に代表取締役社長に就任されました。


【境社長】
 明けましておめでとうございます。
 宇佐市で生まれ、幼稚園から大学受験浪人中まで大分市で過ごし、社会人になってからは頻繁に帰省する機会はなかったですが、大分の移り変わりを耳にするたび懐かしく思っていました。2年前に豊の国かぼす特命大使を拝命し、その名刺を配っては微力ながら大分のPRにも努めています。どうぞよろしくお願いします。
 少し会社の紹介をします。時事通信社の源流は、渋沢栄一が創設に関わった「国際通信社」で、幾つかの変遷を経て、太平洋戦争の敗戦後に再出発しました。従業員が株式の100%を保有する変わった経営形態をとっています。
 もともと、新聞社などに記事や写真などを卸売りするのが中心の会社でしたが、自社でもウェブサイトから情報を発信するようになりました。行政向けとか金融市場向けにも専門的なニュースを日々配信しています。
 生命線は速報でして、例えば渋谷のキューフロントという大きなデジタルサイネージなどにもニュース速報を流しています。


【広瀬知事】
 境社長はどんな学生だったんですか。


【境社長】
 小学生のときの壁新聞を作る授業から新聞作りにはまり、それがガリ版刷りになり、中高生になってコピー機が出てからは、手書き新聞を自分で作って配っていました。浪人中も「少年浪人新報」という手書きの新聞を作って、仲間内に配ったりして、あの頃は将来のことなんかあまり考えていなかったような気がします。


【広瀬知事】
 拝見しましたが、随分凝っているし、なかなかやるなと思って感心しました。その頃から、ジャーナリストとしての片鱗を示されていたんですね。


【井口アナ】
 境社長はこの20年間、ジャーナリストとして外から大分県をどのようにご覧になっていましたか。


【境社長】
 大分の人たちはかなり心豊かに暮らしているんだろうなとずっと思っていました。例えば、自然環境の豊かさ、歴史的な遺産の多さ、映画館、書店、スポーツ競技場もかなり整っています。高速道路なども20年間で随分整備が進みました。
 ただ、私は昔から、空港を国東に置いたのは戦後県政の最大の失敗じゃないかと思っています。中心都市へのアクセスが1時間というのはちょっと長いかなと。

境社長
【広瀬知事】
 災い転じて福となすと言いますか、国東だから海に張り出した3000mの滑走路がある空港ができたんですが、宇宙港の話では、その滑走路がセールスポイントになり誘致できました。確かに、宇宙港に行くのに1時間もかかるのは大変ですが、ホーバークラフトが復活すれば25分で行き来ができるようになります。そういった意味では、少しずつ良くなっているのかなと思っています。


【境社長】
 大分県で忘れてはいけないのが観光ですが、「おんせん県おおいた」は、一村一品みたいな小藩分立的な意識から県域的な意識に変換させるいいきっかけになったと思いました。
 それまで知り合いと話しても「別府や由布院は知っているけど、大分ってどこにあるんだっけ」と言われていたんですよ。大分イコールおんせん県というイメージにしたのは本当に画期的だなと思いました。


【広瀬知事】
 いろんな知事さんから、うちも温泉県なんだけどとよく言われました。そのときに申し訳なかったと私も頭を下げました。湧出量や湧泉数が日本一ですから、「日本一のおんせん県」と付ければいいでしょうと申し上げたら、もっと怒られましたね。今は他の県でもどんどん使っていただいていいじゃないかということにしています。

激動の世界情勢について


【井口アナ】
 ウクライナをはじめとした世界情勢などについて、お二人に伺います。


【広瀬知事】
 昨年2月にロシアがウクライナ侵略を始めました。そのため、石油や食料も値上がりし、我々の生活にまで直接影響が出てくることになりました。どうして戦争が起こったのか、ロシアの動きはどうなんだと関心を持って見るようになりました。
 外国の動きを責任を持って知らせるご苦労と、最近の取材の仕組みや状況について、まず聞かせていただければと思います。


【境社長】
 21か国26都市に50人ほどの特派員が常駐し、各支局の現地スタッフなどを含めると海外に150人ぐらいいます。それだけではカバーできませんから、ロイター通信とかAFP通信などと提携して、幅広く国際情報を集めています。
 ただ、第一報となると、現地のメディアが一番速いので、当社はその報道を基にして取材に動くなどしています。これは外国のメディアも全く同じでそれが一般的だと思います。ただ、ロシアのタス通信、中国の新華社通信などの国営通信社は、時として自分たちの主張や宣伝が混じっているので、事実の確認は相当念入りにやっています。
 ウクライナ侵略の後、ロシア政府が国内の治安維持のため、ロシア軍に不利な情報を流したメディアの記者を最長で禁錮15年に処する法律を制定しました。
 そういう制約の下でも実情や平和を求める人々の叫びを、日本の読者に伝えたいと思っています。昨年11月にモスクワ市内の拘置施設にいる野党系の指導者イリヤ・ヤシンへの書面インタビューに成功しました。現地のロシア人の助手は一切関与させずに、日本から派遣している特派員だけで行いました。


【広瀬知事】
 何げなく読んでいますが、心して読ませていただかなきゃいかんなと思います。
 ロシアのサハリンで天然ガスを掘っていますよね。その一部が大分県のコンビナートの火力発電所にも来ていますが、応酬が激しくなるとそれが止まる。そうすると電力の供給に支障を来すこともあり得るわけで、遠くのことが近くにも影響するんだなとひしひしと感じますね。
 大分県では在沖縄米軍の基地負担軽減のため、日出生台演習場を米軍が使っています。この折衝に当たる九州防衛局から、もうちょっと弾力的に使えないだろうかと非公式の打診があったりして、米軍の演習にまで響いてくるのかと非常にびっくりしました。


【境社長】
 北朝鮮問題あるいは台湾情勢で緊張が高まっているところにウクライナの侵略が始まって、今、ロシアが中国に接近せざるを得ない状況になっています。日本の隣国はロシアであり、ますますアジアの安全保障問題への懸念が高まっているんでしょうね。

広瀬知事
【広瀬知事】
 国内で考えても、防衛予算の増加の議論がありますよね。今までは憲法の関係もあるので、防衛費はできるだけ抑えるのが日本の国是でした。ああいう問題が起こり、防衛力の増強はターニングポイントになるかもしれないなという気がしています。


【境社長】
 私はウクライナ危機のターニングポイントは、2014年のロシアのクリミア併合だと思います。あれによって、NATOが各国に防衛費のGDP比2%への引上げを求めるようになりました。
 それと、2022年5月にバイデン米大統領が台湾有事の際の軍事介入を明言しました。アメリカはこれまで、わざと曖昧にすることにより、警戒心を高めて抑止を狙っていたわけですが、あそこまではっきり口にしたことはかなり大きな意味があると思います。
 昨年の暮れからの防衛体制強化の論議は、戦後日本の国防の在り方の大きな転換点になると思います。専守防衛というと、平和的に聞こえますけど、言ってしまえば本土決戦なわけで、シェルターもほとんど整備されていない中で、本当に日本の国民や財産を他国の攻撃から守ることができるのかと。


【広瀬知事】
 吉田元首相の本の中で「ウィルソン大統領の補佐官だったハウス大佐から、ディプロマティック・センスのない国民はやがて凋落するよと警告を受けた」とありました。
 ディプロマティック・センス、外交感覚とでもいうんですかね、国際社会の中で信頼され、そして、存在感のある国になると。
 本の中で吉田さんは、「信頼関係のあったイギリス、太平洋を挟んで隣のアメリカと縁を切って、ヒトラーやムッソリーニと結んだのはセンスがない」とも言っていて、外交センスも大事だなと感じました。


【境社長】
 軽武装、経済中心、日米安保を中心に戦後の外交戦略を組み立てた吉田茂は、なかなかのものだなという気がします。
 ただ、先進国になってからの日本は、金で何でも解決すればいいみたいな面があって、例えば今度のウクライナも、支援を寄せる国に対する感謝の声明の中に日本は入っていません。侵略に立ち向かう国に対する支援がまともにできない国は、国際常識からずれているような気がします。
 先ほどのハウス大佐の言葉は日本の主体性とも絡んでいて、アメリカも「本当はこうしたい」ということを日本に言ってほしいんじゃないかと。
 それと、日本の近代史、特に戦後の国際秩序が形作られていった経緯を学校で詳しく教えた方がいいと思います。そこが不十分なことが日本全体の外交センスの甘さにつながっている気がします。


【広瀬知事】
 平和憲法は大事ですけれども、守るためにどんなに苦労しなければいけないかの勉強が必要だと思います。
 今年は、2023年G7サミットが広島県で開かれますよね。日本は議長国として国際政策についてコンセンサスをつくり出す必要がありますが、何が議論になってくるんでしょう。


【境社長】
 一つは、被爆地広島を会場に選んだわけですから、核兵器のない世界に向けて、目に見える成果を挙げられるか。
 あとは、今度のG7は中国やロシアとの対決姿勢を鮮明に打ち出すような場になる気がします。
 それともう一つ、気候変動の問題が引き続き大きな議題になると思います。支援を求める途上国と、負担を懸念する先進国との対立の火種が残ったままなので、G7の議長国としてどう調整力を発揮できるか。


【広瀬知事】
 ターニングポイントをしっかりつかまえること、そして、磨き上げた外交センスでしっかり対処していくことが大変大事になりますね。
(次号に続く)

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