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東京大学航空宇宙工学専攻教授
中須賀 真一
(株)インフォステラ代表取締役CEO
倉原 直美
大分県知事
広瀬 勝貞
広瀬知事
明けましておめでとうございます。今回は、宇宙を舞台に仕事をしているお二人にお話を伺います。お一人目は、東京大学大学院で宇宙工学を研究している中須賀真一教授です。
中須賀さん
新年明けましておめでとうございます。本日はよろしくお願いします。
広瀬知事
もうおひと方は、宇宙ビジネスを創業された(株)インフォステラ代表取締役CEOの倉原直美さんです。倉原さんは、豊後大野市生まれで竹田高校のご出身です。
倉原さん
よろしくお願いします。
広瀬知事
倉原さんの会社はどのようなことをされているのですか。
倉原さん
衛星の運用に必要な、地上の通信設備を貸し出す仕事をしています。例えば、人工衛星が撮影した画像を地上に送るためには、地上にアンテナや通信施設が必要になります。そういった設備を貸し出す仕事です。
宇宙との出会い
広瀬知事
宇宙との出会いを聞かせていただけますか。
中須賀さん
私の出会いは、アポロ11号の月面着陸です。今、私たちの世代で宇宙に関わっている人は、アポロ11号に感銘を受けた人が多いです。日本で、若い人たちにそんな強烈なイメージを与えられる機会を作りたいですね。
広瀬知事
大分県が宇宙港に力を入れている理由の一つに、子どもたちに宇宙への夢を持ってもらいたいということがあります。飛び立つところを見て宇宙に大きな関心をもってもらったり、宇宙のことを勉強しようと思ってもらったり、そういう刺激を受けて挑戦してもらいたいですね。
倉原さん
私は小さい時から、宇宙そのものに興味がありました。買ってもらった小型の天体望遠鏡で初めて月を眺めた時のことを今でも覚えています。初めて日本人が国際宇宙ステーションに行くニュースにも刺激を受けました。それが宇宙との出会いです。もう一つ、小学生の時、連れて行ってもらった北九州市のスペースワールドで衝撃を受け、宇宙で働きたいと思うようになりました。
期待広がる宇宙ビジネス
広瀬知事
宇宙開発や宇宙ビジネスは、今後どういう方向に進んでいくと思いますか。
中須賀さん
昨今の大きな流れとして、官から民への移行があります。官では、災害監視など公共事業的なものしかできにくいですが、民は産業になるのであれば宇宙旅行をビジネスとしても構わない。民が中心になることで、幅広い、かつ規模の大きい宇宙産業になっていくだろうと思っています。
広瀬知事
宇宙ビジネスで一番大きいのは人工衛星ではないかと思うのですが、今後、人工衛星はどのような分野に使われていくのでしょうか。
中須賀さん
まずは通信関係です。中でも通信速度の遅延が少なくなる、低軌道(地上に近い位置)に打ち上げる衛星が増えています。
倉原さん
日本の国内では山奥や海上、また海外ではアフリカなど電波の届かない場所がまだたくさんあります。そういった場所も、地上のインフラと衛星網を組み合わせる事で、インターネットがつながるといわれています。
広瀬知事
地球観測にも衛星は必要になってくるでしょうね。
中須賀さん
そうですね。地球観測も高度が低い方が地上の細かいところまで見えるんです。頻繁に見るためには何百という衛星が必要なため、衛星の数を増やしていく動きが始まっています。
倉原さん
観測画像の使われ方も多岐にわたっています。麦の刈り入れ時、画像を見て乾燥状態を判断し、乾燥しているところから刈り入れることで乾燥にかかる燃料費を抑えるといった使われ方をしています。
広瀬知事
自然災害対策にも活用できそうですね。
中須賀さん
災害監視は宇宙の大事な役割の一つです。観測を継続することで前との違いを知ることができるので、災害が起こった直後、どこで何が起こったか、どこに人を送らなければいけないかということが分かってきます。
広瀬知事
いろいろな機能を果たす衛星が上がるとなると、衛星からのデータを解析して利用する関連ビジネスも出てきますね。
倉原さん
まさにそのとおりです。衛星を作るのは宇宙ビジネス全体の一部でしかありません。データ利用やそこからのサービスなどが産業の成長として大きいです。
広瀬知事
もう一歩進んで、宇宙旅行ビジネスというのも出てきそうですね。
中須賀さん
去年は宇宙旅行元年といわれるように、いろいろなところで宇宙旅行がスタートしました。ここで分かったことは、民でも宇宙旅行用のロケットが作れるということです。世界には宇宙に行きたい人がものすごくいますから、確実にビジネスになると思いますね。
広瀬知事
今までのロケットは、打ち上げた地点に戻ってくるというやり方でしたが、今後はA地点からB地点の2地点間移動もあるわけですね。
中須賀さん
宇宙まで行くということは、世界中のどこにでも行けるということになるので、2地点間移動をやろうという動きが日本でも起こっています。この方法だと世界中が日帰り圏になるのでビジネスのやり方も変わって来るかもしれませんね。
倉原さん
私も2地点間移動が実現すると世界が変わると思います。人がビジネスで出張利用するだけではなくて、例えば、食料や衣料品といった物資と医師が2時間ぐらいで世界のどこにでも移動できる。すごい革命になるんじゃないかなという気がします。
広瀬知事
ただ、ちょっと心配な点もありまして。今の宇宙飛行士がされているみたいに、ものすごい訓練をして、その訓練に耐えられないと、宇宙に行けないということでは難しいですね。
中須賀さん
打ち上げの時にどれだけ加速度がかかるかだと思いますが、それが今どんどん小さくなっています。しかもロケットの中がゴージャスにできていて、旅行気分で行けるようになっているそうです。これが、民がやるということのアイデアですよね。
アジア初の水平型宇宙港
広瀬知事
大分県が目指している宇宙港ですが、国も成長戦略実行計画で「宇宙港はアジアにおける宇宙ビジネスの中核拠点の一つ」と位置づけて応援してくれています。このような県や国の動きを見て、県内の民間企業も宇宙ビジネスに積極的に取り組んでくれているような気がします。
もう4年前になりますが、大分県内の中小企業4社が協力して、「てんこう」という地球低軌道環境観測衛星を開発しました。自分たちのビジネスフロンティアが宇宙まで広がったということで学生が積極的に採用試験を受けてくれるなど、良い面があったと喜んでおられます。
また、アバターという遠隔操作ロボットを作っている会社が大分県にあるんですが、アバターを宇宙空間で使えないだろうかと研究しています。
中須賀さん
日本はアバターなどロボット系の技術や画像処理に強いんです。こういったものを組み合わせてお客さんが喜ぶアイデアを産業化していくとアバターは広がると思いますね。
倉原さん
大分空港では10年間に20回打ち上げ予定だと思うのですが、もっと回数を増やす活動をしてもよいのではないかと思います。地域や周辺への経済波及効果が違いますからね。
中須賀さん
人工衛星の打ち上げ場には、衛星技術者が2週間くらい滞在します。世界中から集まった衛星技術者に、いろいろなサービスを提供する産業が起こる可能性があるわけです。宇宙港をきっかけに、その周りにいかに産業を広げていくかがとても大事ですね。技術者にとって、休日は、その地域の美味しいものを食べたり、観光したり、自然と触れあうというようなことがとてもありがたいです。もう1回行きたいなと思わせ、リピーターを増やす、非常に大事な手段になると思います。
広瀬知事
今、日本国内では小型の人工衛星を打ち上げる機会があまりないから海外に行かざるを得ないけれど、日本で打ち上げる場所があれば、そこを使いたいという話もあります。また、国内外の宇宙関連企業から、うちもこういう仕事をやりたいという問い合わせもきています。これを核にして広げていくということは、非常に大事なことだと思っています。
中須賀さん
いよいよ今年打ち上がるということで、本当にワクワクしますよね。大事なことはこれを出発点としてどんどん世界に広げていくことだと思いますね。
倉原さん
宇宙港の取組は、いろいろなビジネスや活動の起爆剤になるのではないかと思っています。成功することを祈っています。
広瀬知事
最後に、子どもたちにメッセージをいただけますか。
中須賀さん
今はなかなか失敗が許されない社会になりつつありますが、失敗がないところに新しいものは生まれないと私は信じています。
宇宙はまさに誰もやったことがない、行ったら何が起こるかわからない、そういう世界です。こういった世界で徹底的に新しいことに挑戦するからこそ新しいものが得られ、新しい発見がある。失敗を恐れず挑戦していくこと、これが日常生活や研究、ビジネスなど、いろいろなところで大事になってきます。挑戦という言葉を思い出して、やっていただきたいと思いますね。
倉原さん
私は理系の科目が苦手でしたが、宇宙をやりたいという思いだけでなんとか頑張ってこれたと思います。諦めずに、自分のやりたいことを追いかける、そういうことを大事にしてほしいなと思います。
広瀬知事
大分県にも、もうすぐ宇宙の時代がやってきます。私たちも大分宇宙港をぜひ実現して若い人たちの夢を次々に宇宙に打ち上げていきたいと思います。大分の水平型宇宙港、楽しみに待っていてください。本日はありがとうございました。