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Vol.9 外国人の人権
🔳 活動を行うようになったきっかけは?
私は1986年から行政書士としての業務を開始したのですが、他の行政書士の方々と業務の差別化を図る中で、法務大臣承認申請取次者(現福岡出入国在留管理局届出者)の申請を行い、大分県第1号の取次者として認可されました。この資格により行政書士の業務として、外国人の方々の在留資格の申請や延長、変更などの手続きを、当事者や受け入れ先の企業などに代わって行うことが可能となりました。
この承認を受けて以降、私の行政書士事務所には多くの外国人の方が相談に訪れるようになりました。外国人の方々の様々な困り事を伺う中で、自身の行政書士としての業務の範囲だけでなく、より多くの方が様々な法的問題や、生活上の悩み事を気軽に相談できる仕組みが必要だと考えるようになりました。
自身の考えを形にすべく、1995年に『大分出入国事務取扱協議会(現外国人Life Support)』を設立し、1996年6月からは月に1回の頻度で、『入国・在留・国籍手続無料相談会(現外国人無料相談会)』を開始しました。外国人の方々が日本で安心して生活できるように、営利を目的とせず、何でも相談できる外国人の方々の駆け込み寺として、現在まで継続して活動を行っています。
🔳 現在の活動について教えてください。
大分県の主催で2019年6月に設置された『大分県外国人総合相談センター』で実施されている『外国人無料相談(毎週土曜日13:00~16:00)』に外国人Life Supportから行政書士や弁護士などの法律専門相談員を2名、さらにサポーター1名を派遣しており、私自身も月に2回ほど窓口で相談業務にあたっています。外国人の方々の法的な問題や生活上の困り事など幅広い相談に対して、法律の専門家としての立場から様々なアドバイスを行っています。
また、最近では、コロナ禍で中断していた相談員研修を再開しました。外国人が抱える様々な問題により適切に対応するためには、相談員の更なる資質向上が求められます。最適なアドバイスをするためには、相談員が常に最新の情報やスキルを持って、学び続けることが必要です。定期的な研修を実施することで、質の高いサポートの提供に努めています。
🔳 今後の活動について教えてください。
外国人の方々は自国と異なる生活状況や、文化の違いから生じる問題、悩み事を抱えています。仕事では言葉の違いや異なる労働環境によるストレス、私生活では国際結婚や離婚に関連する法的な問題も起こっています。また、近年ではDV(ドメスティックバイオレンス)の相談も増えてきました。異国の地でこれらの問題を一人で解決するのは非常に難しいことです。
ゴミの出し方に代表されるように、日常生活のちょっとした場面でも、自国とのルールの違いに戸惑うことがあります。役場で生活のルールを書いた紙をもらっただけでは、実際の生活でどのようにしたらよいのか、理解しにくいこともあるかと思います。私自身も海外へ行った際にバスに乗ったはいいが、降り方が分からないということがありました。日本では降車ボタンを押せば次のバス停で簡単に降りることができますが、その国のバスには降車ボタンは付いていませんでした。結局、周りを観察して「降ります!」と叫べば降ろしてもらえることが分かったのですが、バスの降り方ひとつとっても国によってルールが異なります。我々にとっては当たり前のことでも、ルールの分からない外国人の方々にとっては、日常生活を送る上での障害となることもあるのです。
こうした法的なものから日常生活に至るまで、多種多様な悩み事に対処するためには、包括的なサポート体制を整備することが重要です。将来的には、異なる機関や組織が連携し、外国人が抱える問題にトータルサポートをする仕組みの組織化も必要だと考えています。
また、外国人の方々へ支援に関する情報が届きにくいという課題もあります。情報が必要な人々に適切な形で届くよう、メディアやSNSなどを活用し、外国人コミュニティに対して支援があることを十分にアピールすることが必要だと考えています。外国人と地域社会がどのように関わっていくのがベストなのか、そのためにはどのような仕組みづくりをすればよいのかを考えて、発信していければと思います。
その他にも、支援機関同士の横のつながりについて、模索していきたいと考えています。他県の外国人総合相談センターの運営やシステムに関する情報が共有できれば、各地域が抱える課題や成功事例、対応策についての情報交換を行うことができます。匿名性を確保しつつ共有できるプラットフォームの構築が課題ですが、実現できれば一人ひとりにあったサポートの選択肢が広がるのではないかと期待しています。
🔳 差別をなくすために行動したい人へのメッセージをお願いします。
まずは外国人の方と触れ合うイベント等に参加してみるとよいかと思います。外国人、日本人関係なく、多くの問題はコミュニケーション不足から来ることが多いと感じます。言語の壁はあるかもしれませんが、今は翻訳アプリ等もありますし、日本語をある程度勉強して来日している方も多いので、意思疎通に関するハードルも従来よりは低くなってきています。ありのままの外国人の方と接し、「そういったこともあるかぁ」と受け入れることから初めてみてはどうでしょうか。
また、更に一歩進みたいという方には、地域や会社などで外国人のメンター的な役割を担っていただければと思います。外国人の方の中には、仕事で忙しくしていても、土日は一人で過ごすことが多く、孤独感を感じている方もいらっしゃいます。そういった方に声をかけ、仕事や生活全般において少しでも精神的なサポートができれば、多くの外国人の方々の生活は、より安心できるものになるでしょう。困っている人を見かけたらぜひ声をかけてみてください。
外国人と日本人がお互いの文化や習慣、宗教に関する知識を自然に学ぶ機会が増えれば、お互いの理解が深まり、多様性を尊重できる社会になるのではないかと思います。