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Vol.8 子どもの人権(フリースクール)

印刷ページの表示 ページ番号:0002257889 更新日:2024年3月27日更新

佐伯さん紹介カード

🔳 活動を行うようになったきっかけは?

佐伯さん01

 私は若葉会の代表として、フリースクール『ハートフルウェーブ』や放課後等デイサービス、自立支援寮などを運営しています。現在の活動の原点となるのがフリースクールになるのですが、そのきっかけは立命館アジア太平洋大学(APU)の学生時代に始めた家庭教師のアルバイトにあります。国際経営学部に在籍していたので教育に関する経験はありませんでしたが、知人から家庭教師のアルバイトの依頼があったのです。

 その家庭のお子さんは不登校でした。通常の家庭教師のアルバイトは平日の放課後が一般的ですが、不登校の場合は状況に合わせ午前中から家庭教師に入れるとのことで、長時間働ける良い仕事になると思い、それを機に「不登校生専門家庭教師わかば」を立ち上げました。

 いざ、不登校のお子さんと一緒に過ごしてみると、私がこれまでに思いもしなかった不安や葛藤を持っていることに気づかされました。不登校の子どもは決まった時間に机に向かって学習する機会だけでなく鉛筆を持つ機会が少なく、その状況が続くと将来の進路が限られると感じ、自分自身を追い詰めて絶望的な気持ちに陥ってしまうようでした。家庭教師の仕事を通じて不登校のお子さんと触れ合っていく中で、もっと不登校や教育について学びたいという気持ちが強くなっていきました。

佐伯さん02​ 家庭教師業を始めて10年目の時、生徒の保護者から「先生が家に来てくれることで親以外とも会話ができていますが、それ以外にこの子は外と接する機会がほとんどないのです」というお話を伺いました。当時、大分には不登校の子どもたちを受け入れるためのフリースクールが一つも存在していませんでした。こうした子どもたちのためには、大分にもやっぱりフリースクールが必要なのでは、と考えるようになり「ないなら自分で作ろう!」と、自ら立ち上げる決心をしました。フリースクールを開設してからは、不登校の子どもたちだけではなく、発達障害の子どもたちのように、様々な特性を持った子どもたちも受け入れるようになっていきました。その中で、より専門的にサポートができるようにと思い、放課後等デイサービスを開設するなど、様々な事業を展開してきました。

 

🔳 現在の活動について教えてください。

 現在の社会では、以前よりも不登校が否定的に見られなくなっています。フリースクールが選択肢の一つとして広がり、不登校になってからフリースクールへつながる期間が短くなってきています。子どもの特性に合った育て方を重視する保護者が増えていることが影響しているのではないでしょうか。学校とフリースクールの関わり方も変わりつつあります。以前は子どもたちがフリースクールに通うことについて、理解を得づらいこともありました。

 しかし、最近では、フリースクールが子どもたちにとっての選択肢の一つであるという認識が広まってきていると感じています。引きこもらずに行く場所があるということは、子どもたちにとってもよいことだと考える学校の先生も増えているようです。こうした変化は、子どもたちそれぞれに適した教育環境を提供する上で重要だと思います。

 実は、今までお話した事業はすべて、一人ひとりの子どもの特性にあわせて、その都度新たに立ち上げたものになります。

佐伯さん03​ 例えば、個別学習個別療育の放課後等デイサービスは、人間関係に苦手さを感じて学校の教室で授業を受けられない子に1対1で学習ができる場所を作ろうと思ったからで、創作活動の放課後等デイサービスを立ち上げたのは芸術の才能をもっと伸ばしてあげたいと思う子に出会ったからです。一人ひとりのためにもっと良い環境を作ろうと考えて事業展開を続けた結果、今の形になっています。

 不登校の子の中には、思春期や反抗期を迎え、保護者だけでは対応が難しい子どももいます。家族以外と会う機会がなく、煮詰まったり、孤立したりしている場合もあります。そういった子どもたちを一旦受け入れ、その間に親子の関係を再構築することが重要だと考え、自立支援寮も設立しました。数年間引きこもっていた子どもたちでも、寮に入って共同生活を送ることで、半年もすれば学校生活に戻りたいと言う子がほとんどです。様々な年代の子が共同生活のルールを守りながら暮らすことで、子ども同士の連帯感が生まれることも影響を与えているようです。

 進学や就職で卒業していった子どもたちも、ふらっと遊びに来たり、成人や結婚の報告をしに来てくれたりと、関係が途切れることはありません。卒業生が今いる子どもたちを手助けするという自然な関係ができています。ここで生活している間にいろんな人に助けられたという思いを持って卒業をするので、今度は自分が誰かを支える番だという意識が根付いているようです。

 

🔳 今後の活動について教えてください。

佐伯さん04

 今後の目標ですが、家族全体をしっかりとサポートする場所を作れればと考えています。

 今は子どもが寮に入って親は家で生活をするという形ですが、家族で住めるアパートがあれば一緒に生活をしながら、私たちがサポートできるからです。日々、子どもと向き合う中で、どうしたらいいかわからないと感じることはたくさんあると思います。親は本音では「学校に行きなさい」と言いたいけれど、現実は複雑で、言えないという状況もあるかもしれません。時代が進む中で、親が本音を言えない状況が増え、子どもたちのことが理解しづらくなっているのが実情です。家族が本音で向き合えないと、子どもたちもどうしたらいいかわからなくなります。そこで、家族全体をサポートすることで、お互いがお互いを助け合い、共に成長できる場を提供したいという思いがあります。

 また、家庭の食事がおざなりになってしまっているケースをよく見ます。長年活動を続けていく中で、食事が子どもたちに与える影響が、世間で思われているよりも大きいと感じるようになって来ました。このため、宅食のような、食事のサポートを提供できる環境を整えられればと思っています。親ができれば一番いいのかもしれませんが、現代は核家族化も進んで、仕事に家事にとやるべきことが増え、全てを完璧には出来ないという現実があります。何も食べないのはよくないとわかっていても、朝ごはんを用意できない、子どもが食べないといった悩みも多い中で、気軽に利用できるサービスがあれば、負担も減るのではないかと考えています。家族で同じものを食べることで会話が生まれ、絆が深まるようなサービスが提供できればと考えています。

 何か困ったことがあればサポートしてくれる場所があるということを、もっと多くの家庭に認識していただくため、「いつでも力になりますよ」というメッセージを出し続けたいと考えています。

 

🔳 差別をなくすために行動したい人へのメッセージをお願いします。

 私が行っている事業に関する話にはなりますが、もし何か行動したいという方がいれば、ぜひ「私はこんなことができます」というのを教えてほしいと思っています。力になりますよというお声がたくさんあると嬉しいです。

  具体的には、昨年、フリースクールの子どもたちと『見えないものを体感しよう』というテーマを決めて、社会見学をしました。その際にFacebookで協力を呼びかけたところ、非破壊検査の会社の方が協力してくださいました。機械を触らせてもらったり、道路の点検を見学させてもらったりと、普段関わることのない世界や大人との出会いはすごく刺激になったようです。

佐伯さん05

 通常の学校教育では、接する大人が主に親や先生に限られているため、大人たちの背中を見られる範囲が限られてしまいます。しかし、実際の社会には様々な価値観や考え方、経験を持った大人たちが暮らしています。そのような様々な大人たちと交流することで、子どもたちは新しい視点を得て、こんなかっこいい人たちがいるのだとか、もうちょっと気楽にやってもいいのかなとか、価値観の変化を経験することができます。これが、現在の教育現場では難しい側面かと思いますし、逆に言うとフリースクールの強みかと思います。

  子どもたちがたくさんの交流や経験を通じて、多様性を受け入れ、他者とのコミュニケーションが豊かになるような環境を整えていければと考えています。