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新天地でレモン栽培をスタートさせた南信州菓子工房の挑戦

印刷ページの表示 ページ番号:0002289704 更新日:2025年1月31日更新

 

 

 

 

国産ドライフルーツメーカーが農業参入を決意するまで


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​▲大分佐伯ファーム株式会社 伊東農場長

長野県に本拠地を置く南信州菓子工房株式会社は、国産ドライフルーツの生産・販売で国内シェアNo.1の実績を誇ります。
同社では、2022年5月、新規事業として大分県佐伯市でレモン栽培をスタートさせました。
農業分野への新規参入にあたり、独自の支援制度をもつ大分県のサポートが大きな原動力になったと言います。

 

〇半生菓子の製造技術を生かしたドライフルーツが人気を博す

​​半生菓子メーカーを営む父のもとに生まれた木下さんは、2012年に南信州菓子工房を設立し、半生菓子の製造技術を生かした砂糖漬けドライフルーツの加工・販売に取り組んでいます。

糖分を含浸(がんしん)させ、できるだけ水分を多く残してやわらかい食感に仕上げる製法が功を奏し、設立から10年で20品目のドライフルーツを手がけるまでに成長。2021年3月期決算で14億8,000万円の売上高をマークし、業界のリーディングカンパニーとしての地位を不動のものにしています。

〇気候変動の影響で、売れ筋商品のレモンの原料供給が不安定に

一番の人気商品はレモンを輪切りにしたドライフルーツで、全体の売上高の2?3割を占めます。原料はおもに愛媛県産や広島県産レモンを調達していましたが、寒波の襲来や2018年の西日本豪雨被害により、瀬戸内地域での原料調達が不安定な状況が続きました。レモンの仕入れ量は最盛期の300トンから100トン程度まで落ち込み、看板商品を安定的に提供するための原料確保が急務となっていました。

〇仕入先からの提案で、農業参入への道を模索

新たな原料の調達先として、ミカンなどを栽培している農家にレモンの契約栽培を打診してみましたが、苗木を植えてから収穫できるまでに数年かかる果樹栽培にはリスクも伴います。新規の栽培に積極的に協力してくれる農家はなかなか見つかりませんでした。
そんな中、カボスやキウイの仕入先であるJA全農おおいたの担当者にもレモン栽培を依頼したところ、「サポートを受けながら、自分たちで作ってみてはいかがですか?」と勧められ「その手があったか」と気付いたのです。
農業の担い手の高齢化が進み、この先の原料確保にも課題を感じていたので、自社での栽培は将来のリスクヘッジになると考えました。

 

大分県での農業新規参入を決断した充実のサポート体制


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大分県では、農林水産部 新規就業・経営体支援課 企業参入支援班(専任スタッフ4名)と振興局(県地方機関1名)、企業参入担当(1名)、さらに市町村やJAなどの関係機関や県庁関係各課が連携し、参入相談から栽培開始までワンストップ体制でのサポートを行っています。
2007~2023年3月末までの累計で359社件の農業参入を受け入れてきた実績があり、県外企業の成功事例も数多く存在しています。
栽培や農業経営に関する知識や経験がなく、県外からの参入となる南信州菓子工房にとって、県や市、関係機関による連携支援は心強い後押しとなりました。

〇参入相談

南信州菓子工房が農業参入を検討し始めたのは2016年のことでした。
参入相談を経て、実際にプロジェクトが始動する際にはそれぞれの担当者による役割分担を行い、スケジュール案を作成。
県が毎月のタスクを管理し、参入サポートを受けました。

〇農地の確保

南信州菓子工房は、農地中間管理機構を通じて2017年から農地の確保に動き始めました。最終的には佐伯市内に12haの農地を借り受けることができたと言います。地権者との交渉は佐伯市が中心となって行い、100筆以上あった農地を2カ所に集約することができました。基盤整備では、田や畑だった農地に果樹栽培向けの土壌改良が施され、鳥獣害対策なども行われるなど、サポートも万全でした。

〇経営計画の作成

(1)補助事業などの支援策選定
​補助事業の選定については、県やJA全農おおいたのアドバイスを受けました。国や県の補助事業の中から補助率などを見極め、南信州菓子工房にとって最適な補助事業を複数組み合わせて利用したそうです。

利用した補助事業
■農地耕作条件改善事業
■農地中間管理機構関連農地整備事業
■産地生産基盤パワーアップ事業
■果樹経営支援対策事業
■次代へ繋ぐ園芸産地整備事業(大分県)
■企業等農業参入推進事業(大分県)

 

(2)人材の確保
​農業への新規参入にあたり、人材の確保も重要です。南信州菓子工房では、宮崎県出身の農業経験者を農場長として1名採用したほか、県の紹介で地元の農業大学校の卒業生2名を迎えました。県から紹介された2名は、初めての就農ではあるものの、農業機械の操作などの技術をしっかりと習得していて、即戦力として力を発揮してくれているそうです。

〇栽培技術の習得
大分県では、約200名の普及指導員が栽培技術、農業経営をバックアップしています。南信州菓子工房は普及指導員による月1回の技術サポートを受けているほか、JA全農おおいたの指導員が週1回程度ほ場を訪れています。果樹栽培の疑問や質問があるときには、通話・チャットアプリからのリアルタイムな問い合わせにも対応してもらえるのも、大きな安心材料となっています。​

 

農業新規参入の課題|赤字の解消と天候リスク​


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2021年春から2022年春にかけて約5,000本のレモンの苗木を定植した南信州菓子工房。2023年春にはさらに2,300本を追加して、トータル7,500本から年間300トンのレモンを収穫したいと考えています。農業参入決断から栽培開始まで、順調に進むことができましたが、今後の農業経営に向けての課題も意識しておく必要があります。


〇 初期投資回収までの想定期間は12年!?​

レモン栽培は、苗木の定植から収穫にいたるまでに3年程度を要します。初期投資から3年間は売上が見込めないため、スタート時点から「大赤字になることを覚悟していた」といいます。事業計画書では累積損失の解消に12年かかる見通しです。

事業単体での黒字化を見据えてしっかりと農場管理を行い、原料調達用のものだけでなく、青果物として流通させられる高単価商品を作っていく必要があるという判断を下しました。

「自社栽培は原料調達のリスクヘッジとしての側面もありますが、これまでの取引先と競合にならないように、仕入れは継続していきます。天候不順などで原料確保がむずかしいときのために、自社栽培のものでカバーできる体制を整えつつ、青果物として販売可能な高単価レモンの栽培比率を高めて、この事業単体での黒字化を目指していきます。青果用として出荷するレモンは1個あたり250円程度を想定し、年間売上は7,500万円を上回る見込みです。それぐらいで、12年以内に累計黒字化を目指していきたいと考えています。」


〇天候に左右される農業は、数カ月先の計画が立てにくい​

農業経営には天候が大きく影響を及ぼします。大規模な水害や干ばつなどによる水不足など、農業のむずかしさをあらためて実感していると言います。

「食品工場では数カ月単位で先々の計画を立てられますが、農業は計画通りにはいきません。このあたりの地域では、雨の少ない時期の灌水も大変な作業です。」

今後は人員計画や作業計画も含め、あらゆる課題解決に対処していく必要がありそうです。

 

農業の新規参入をめざす企業に伝えたい2つのポイント


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県外企業による異業種からの農業参入を実現した南信州菓子工房。県や市の職員、関連各部署の担当者によるきめ細やかなバックアップ体制のある大分県だったからこそ、スタートラインに立つことができたと振り返ります。県や市が率先して住民説明会を開催し、トラブルがあれば一緒になって対応をしてくれたことも、大きな励みになりました。

農業参入するにあたり大切だと思ったポイントは下記の2つだと言います。

農業参入の2つのポイント
■栽培を始める前に、販売先を確保しておくこと
■農場管理をまかせられる、信頼のおける人材を確保すること


「農業参入する前に、販売先を確保しておかなければその後の経営は厳しくなると思います。幸い当社では栽培を始める前にJAや商社との商談が成立し、思い切った投資ができました。
もう1点は、県外からの参入であれば経営者が頻繁に農場へ出向くことも難しい場合があるので、信頼のおける社員を雇うことも大切です。」

2016年に農業参入を模索し始め、いよいよ2022年から本格始動した南信州菓子工房のレモン栽培。収穫期を迎えるのはさらに数年後になります。よりよい農業経営をめざし、大分県や佐伯市をはじめ地域とのつながりを強化しながら、同社の挑戦は続きます。

企業概要

農業を行う法人名 大分佐伯ファーム株式会社
参入企業名    南信州菓子工房株式会社
参入年度       2019年
所在市町村      佐伯市
経営品目、面積  レモン/12ha
https://www.373shinshu.com/