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地元農業者とタッグを組み関東から大分に進出

印刷ページの表示 ページ番号:0002257557 更新日:2024年3月19日更新

 

ミニトマト

 

 千葉県香取市に拠点を置く〈株式会社和郷〉は、1990年代、農業に革命を起こした会社だ。代表の木内博一社長が、農業をとりまく従来の流通構造に疑問を感じ、市場を通さない販路を開拓したのが始まり。それは“販売者や消費者から直にニーズを汲み取り、求められる野菜を供給する”という新しいビジネスモデルに挑戦するためだった。

 その熱意が世の中を動かした。聞けば聞くほどニーズが湧いてきたため、やがて家業で営んでいた農業の枠を超え、生産者の仲間たち5名で野菜の産直を開始。大手スーパーマーケットや生活協同組合との直接取引もするようになった。そして、活動を始めてから5年後に、現在の前身となる有限会社和郷を設立。続いて農事組合法人和郷園を起ち上げ、現在は生産、加工、流通、コンサルティング事業までを一手に手がける企業に成長している。あの「カットごぼう」を日本で初めてつくったのも、和郷である。

http://www.wagoen.com

 そんな革新的なアグリビジネスを実践する同社が、2012年に子会社の〈株式会社大分和郷〉を設立し、大分県中津市に進出した。

 

農業者だからわかる。「地域を熟知していること」の大切さ


 和郷の大分県進出は、大分県の企業誘致活動が実り、実現した。当時、大分県ではアグリビジネスに参入する県外企業を誘致しており、その一環として誘致活動の担当者が和郷のもとに出向いたのは、2011年の田植え時期のことだった。

 もともと県外進出を視野に入れていた和郷だが、その前提として譲れない条件がひとつあった。進出先で事業を一任できる現地パートナーを確保することだ。農業者集団からはじまり、アグリビジネスについては経験豊富な和郷だが、培ったノウハウが気候も風土も違う土地で同じようにインストールできるかというと、そうはいかない。大分県の農業を熟知した、信頼できる農業人とパートナーシップを結びたい。そんなビジョンを思い描いていたのだ。

 奇遇にも、大分県には適任者がいた。中津市で代々、農業を営んできた〈有限会社中原農場〉の中原良祐さんだ。

中原さん

▲和郷の木内社長と親交のあった、大分和郷の中原良祐社長

 中原さんは、農業者大学校を卒業後、中原農場の事業継承を視野に入れながら首都圏で就職。自然循環型のアグリビジネスを展開する企業で修業時代を過ごした。

 その頃、仕事を通じて和郷の木内社長と知り合い、互いに農業者大学校の卒業生ということで意気投合。中原さんが地元の中津市にUターンしてからも、年に一度は和郷を訪れ、最新の技術や情報を吸収していた。

 そんな中原さんのもとに、1本の電話がかかってきた。

 「ちょうど田植えの最中に和郷からの電話が鳴ったんです。泥だらけの手を拭いて電話に出ると、ちょうど目の前に大分県の担当者が来ているというタイミングでした。話を聞いてみると、大分県で農業に参入することを前向きに考えているが、和郷の方針として現地パートナーがいないとやるべきではないと思っているとのこと。木内社長と旧知の間柄の私なら、あらゆる協力をするからやらないかとお声がけいただいたんです。突然の話で、さすがにしばらく黙り込んだのですが、その場で“やりましょう!”とお答えしました」

中原さん2

▲電話を受けたのは、和郷に足を運んで刺激を受け、独自にトマトの試験栽培に取り組もうとしていた矢先のことだった

 運命にも導かれながら、その夏さっそく計画が始動。和郷本社から木内社長らが来県し、中原農場の耕作地でトマトの栽培を1haから始めることが決まった。長年、近隣の廃業した農家が所有する農地を任されてきた中原農場は、土地のオーナーと良好な関係を続けており、和郷との新しいプロジェクトが始まることもすんなりと受け入れてもらえたという。県外企業が現地パートナーをもつメリットは、こうして地域との関係を築きやすいところにもある。

 続いて、国の補助金を活用しながらスピード感をもって生産環境を整備。翌2012年7月に中原さんが代表を務める〈株式会社大分和郷〉が開業したのだった。

ハウス

▲水田が多い平地にインパクトのある施設が誕生。1haから始まり現在2haに拡大

 

気候、環境の変化に苦戦。経験を駆使して生産性UP!


 大分和郷がトマト栽培のため最初に導入したのは、和郷で栽培技術を確立していた「アイメック」というフィルム栽培システムだった。これは、もともと医療現場で使われる特殊なフィルムを農業に転用したもの。ナノサイズの微小な穴が空いたフィルムは溶液だけを通し、ウイルスや病原体を取り込まないため、安心かつ高品質なトマトが育つ。最小限の設備による環境に優しい農法としても、注目を集めている。

アイメック

 ところが、和郷が懸念していたことが起きた。千葉県の農場で成功していたアイメックの栽培ルールが、大分の気候条件に合わず、1〜2年目は試行錯誤の連続だったのだ。

「例えば、千葉と段違いに違ったのが紫外線量です。大分のほうが圧倒的に紫外線が多く、7〜8年の耐久性があると聞いていた紐が2年目で切れてしまったり、千葉では紫外線カットフィルムを張ると受粉のためのマルハナバチが飛ばないと言われていましたが、大分では飛んだり。私が大分で農業をしながら培ってきた経験則と照らし合わせながら、一つひとつトラブルシューティングをして、大分独自の栽培方法を模索していきました。こうした情報は、逆に和郷本社にもフィードバックさせてもらっています」

 そうして、1年目に6.8tだった収穫量が3年目には9tに膨らみ、満足のいく結果が出せるようになってきた。ただ、農場の近くに高速道路が開通し、今度は環境の変化への対応も迫られた。それまでは発生したことのなかった害虫被害が現れたのだ。

 そんな時に頼りになったのが、大分県農林水産研究指導センターの病害虫対策チームだった。

「高速道路の開通前後に病害が出たほか、近年は温暖化にともなう環境の変化にも適応を迫られています。対処するには何が起きているのかを把握することが第一なので、大分県に病害の見極め判定をしてもらっているのですが、そのレベルが高くて大変助かっています。担当者の方が、数値的な判断に加えて経験的な判断もしてくれるんです。“数値には出ていないけど、害虫がいそうだ”などとアドバイスしてくれるおかげで、こちらも迅速な決断、対策をして良い結果に繋げられます。そういう助言は、いろいろな圃場を見てまわらないとできないですよね? 活発に活動してくれているおかげだと、信頼しています」

 現在は、その試行錯誤の末にたどりついた、オリジナルの栽培方法に取り組んでいる。

 

農業を持続可能にするアグリビジネスとは?


 生産しているトマトは、糖度が高い中玉のフルティカという品種。現在は2haで栽培しており、売上は初年度の2.5倍に成長。最終的に3haの規模、売上にして3億5000万円に拡大することが目標だ。

ミニトマト2

▲最低限の土と水でストレスをかけ、旨味を凝縮させる大分和郷のフルティカ。やわらかい産毛が鮮度と美味しさの秘密

 生産を担うのは、約40名の従業員。外国人を含むたくさんの女性が活躍しており、子育て世代も多数。突発的な休みもカバーし合える体制をとり働きやすい環境づくりをすると同時に、1人あたり1時間の作業量を記録するなどして、生産性の向上にも取り組んでいる。

栽培中
▲多くの女性が活躍。個々のペースで、常に同じ作業ができるようトレーニングしている

 そもそも、初年度から3haの面積でスタートする構想もあったが、1haからと決めたのは中原さんだった。

「規模を確保したとしても、そこで働ける人材がいなければ生産効率が良くありません。ですので、人材育成を優先したかったんです。幸い、中原農場でイチゴを栽培しているため、大分和郷が発足する前から10名を雇用し、まずは中原農場で施設園芸のトレーニングをしてもらいました。そのおかげで、トマトの栽培にもスムーズに着手してもらえたと思います。また、同じ地域で花の生産者をしていた知り合いを農場長にスカウトし、千葉の和郷に研修に行ってもらいました」

「人材を育成したい」という思いは、大分和郷の設立前からの中原さんの夢だ。農業者集団から起ち上がり、農業の世界に新しい風を吹かせた和郷のように、「自分も地元の大分で、仲間たちと肩を組んで農業をやっていきたい」と考えていたのだ。

「農業に携わる人の多くが家族経営で繋いできましたが、過疎化が進んだ今、それは持続可能なスタイルではありません。雇用型に転じ同じ志をもつ農業者が集まり、協力し合いながら作物をつくらなければ、農業の未来はないと考えています。若手農家が少ないと言われていますが、地元にUターンしてみると同世代の農業者も意外と数が多く、みんな頑張っていることが分かりました。生産者どうしが尊重し合える組織がたくさんできると嬉しいし、私たちもそんな組織でありたい。これからも持続可能な農業のスタイルを見出していきたいです」

トマメン

▲産学連携の取り組みで生まれた旨辛トマメン

 2023年3月、大分和郷が生産したトマトの規格外品を使って、中津東高校商業科の生徒のアイデア、地元の商店〈田中醤油店〉の製造による「旨辛トマメン」が開発された。〈道の駅なかつ〉などで販売されており、辛味と旨味の利いたトマトスープが評判だ。農業の枠を超えたこうした活動にも積極的に関わりながら、大分和郷はこれからも、地域での存在感を増していきそうだ。

企業概要

農業を行う法人名 株式会社大分和郷
参入企業名    株式会社和郷
参入年度       2012年7月
所在市町村      中津市
経営品目、面積  トマト/2ha(2023年度実績)
直近売上高    1.78億円(2022年度実績)
従業員数     社員1名、パート43名、外国人技能実習生7名(2023年度12月時点)