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メガソーラーのパイオニア、芝浦グループが社会課題をアグリビジネスに転換
福岡県に本社を置き、不動産事業、建設事業、宿泊サービス業、農業と多角的に事業に取り組む〈芝浦グループホールディングス株式会社(代表取締役社長兼CEO 新地洋和)〉。同グループは、世の中の動向を敏感にキャッチするアンテナと、既成概念にとらわれずに新たな道を切り拓くマインドを両翼に広げ、大きく成長を遂げてきた。大分県内でも、現在、祝祭の広場前に複合商業施設ビル『ニューガイアビルディング大分駅前No.80』を建設中のほか、JR大分駅周辺に大型賃貸マンションやオフィスビルを展開しており、『ニューガイア』と聞けば思い当たる方も多いだろう。
そんな芝浦グループがアグリビジネスに参入したのは、2016年。日本の先駆けとなって展開していたメガソーラー事業がきっかけだった。
芝浦グループには、太陽光パネル設置のための広大な土地を確保する過程で培った、地権を取りまとめるノウハウがある。折しも、日本社会においては、農家の高齢化と後継者不足に端を発する、耕作放棄地が農業課題として浮き彫りになっていた。
九州のアグリ事業者からの紹介を受け、同グループはニュージーランドのゼスプリ社とキウイの栽培契約を締結し、2017年、アグリ事業を受け持つ〈ニューガイアアグリ株式会社(代表取締役 高嶋秀雄〉を設立する)。
▲ニューガイアアグリが経営する日出町大神のキウイ園地
同社はゼスプリサンゴールドの栽培を開始した。これは、世間で “スーパーフルーツ”ブームが巻き起こっていた時期に重なっている。ビタミンCや食物繊維が豊富で、栄養価のとても高いキウイは美容・健康志向の多くの人々から注目を集めていた。
キウイ販売世界大手のゼスプリ社は、南半球にある自国だけでなく北半球の国々にもキウイの栽培拠点を設けている。南半球だけの栽培では、4〜11月頃までしか品質を保って安定供給を見込めない。そこで、ヨーロッパや日本でも、大規模な園地を管理運営できることなど一定の条件をもとに契約栽培先を開拓し、1年を通じて世界中にキウイを供給するためのグローバルな戦略を展開している。
グループ各社のノウハウを生かして開園、そして初収穫
ゼスプリ社との契約上、2haほどの大規模な園地で栽培することが条件のひとつだった。そのため、メガソーラー事業や不動産事業の人脈や情報網、農地バンクも頼りながら、まずは広大な土地の確保に努める日々。地元自治体の農業振興、企業誘致関連部署にも協力を仰いだ。
そんなある日、日出町大神の梨農家から1本の電話がかかってきた。聞けば、「高齢化により、耕作地縮小を予定している」と言う。土地は海辺にほど近い傾斜地にあり、幸い肥沃で水捌けも良く、キウイ栽培にとても適していた。
地権者との交渉はスムーズに運び、大分県内における最初の園地『ニューガイア キウイファーム4 日出大神』が誕生。ほかに宮崎県西都市に2カ所、山口市阿知須にも1カ所、計4園地が整い、2017年3月に各園地にて初めての定植を行った。
▽ 参考 ▽
農地バンク https://onk.oita.jp
ニューガイアアグリのいちばんの強みは、芝浦グループ企業各社のノウハウを投じられることだ。
「土地探しから、園地の造成、倉庫の建設、キウイの育成に必要な棚建設資材の輸入や苗の調達。芝浦グループ各社の強みを持ち寄り、一貫体制で完結できるところが当社の最大の強みです」
そう語るのは、高嶋代表だ
▲メガソーラー事業からニューガイアアグリの2代目代表に転身した高嶋代表
多角的な事業を展開する芝浦グループであっても、アグリ事業の本質である『栽培や収穫』に関しては、まったく異なる分野への初めての挑戦。キウイの栽培も、すべてが順調に進んだわけではない。
キウイを定植してから初めての収穫までには年月がかかる。初収穫を迎えるまでの間、福岡県や熊本県にも園地を開拓しながらも、初年度に定植した園地の一部ではトラブル対応に追われる事もあった。
「自然や生き物を相手にするアグリ事業ですから、何が起こるかわかりません。最初は知識にも経験にも乏しく、原因がわからないまま苗を枯らしてしまうこともありました」
そんな中、希望となったのが日出大神の園地だった。2019年10月、初年度に定植した4園地のうちで唯一予定通りに、園地最大収穫量の19%にあたる13.3tのゼスプリサンゴールドを収穫できた。(収穫量は樹体に負担を与えないよう計算されている。)他の園地では収穫まで平均的に3年7カ月ほどの年月がかかってしまったところを、日出大神では1年早く収穫することができたのだ。
「直前まで梨の栽培が行われていた肥沃な土地と環境が、結果をもたらしてくれたのだと思います。」
▲面積あたりの収穫量が通常のグリーン系キウイの1.2倍にもなる品種(ゼスプリサンゴールド)を栽培している。
企業ならではの強み!若手が活躍できる就労環境と人材育成
2023年末までに、ニューガイアアグリでは大分、宮崎、福岡、熊本、山口各県に17のキウイファームを開園(総栽培面積:35.2ha)。うち、大分県内ではニューガイア キウイファーム日出大神、国東安岐、杵築熊野、日出大神2の4園地で栽培しており、現在、杵築溝井に5園地目を農地造成中である。(2025年3月定植予定)高嶋代表は大分県の園地の魅力をこう語る。
「大分県の園地は、気候と環境のバランスが良いと思います。温暖で生育が良く、海に近い園地でも塩害はありませんし、災害多発時代ではありますが、今のところ台風が直撃したこともありません」
加えて、行政のサポートも大いに役立っているという。
「振興局に企業の農業参入を支援してくれる担当者の方から、園地を拡大する予定ならお手伝いしますと、日出大神に続く土地を紹介していただきました。また、営農指導にも熱心で、同業者と引き合わせてくださり、県内外のキウイファームへ見学に行くこともできました。さらに、我々の悩みを聞くだけでなく、園地の現状を見て課題をすくい上げ、1年を通して相談に乗っていただいております。大分ほどサポートが手厚く、応援してくれる県はほかにないです」
2023年秋はニューガイア キウイファーム17園地のうち10の園地で合わせて290t、日出大神だけでも54tのキウイを収穫。初収穫の年に比べると総収穫量は5年で20倍以上に急成長している。
▲2023年度、日出大神園地で収穫にのぞむ高嶋代表(中央)とスタッフ
この成長を支えているのが、大分県で地元採用された若手社員たちだ。社員のほとんどは農業未経験からのスタートだが、農業への関心の高さと先輩社員の丁寧な指導もあって、日々農業技術を高めている。
「企業に在籍しながら農業ができる」という安心感、農業に従事しながら「残業時間ゼロ」というのも若手社員にとっては魅力のよう。
「企業として農業に取り組むうえで就業時間を守ることを前提としています。収穫期など農繁期には短期人材を募集して忙しさを乗り切っています」
今後増えていく地元人材の採用に対応するため、栽培サイクルを学べるマニュアル類も充実しており、現在は作業手順ビデオも制作中だ。持続可能な農業経営を目指すJGAPの認証も取得。点在する園地で均一の品質を保つため、そして作業の効率化を図るための人材育成に余念はない。
▲2019年に入社した小島直之さん(中央)がリーダーとなり、大分エリアの新入社員を教育。社歴の浅いスタッフ向けに自ら機械講習などを発案して実施している。
また、芝浦グループ内でも転籍制度を活用して、農業に興味のある人材がグループ企業からニューガイアアグリに転籍した社員もいる。
「“やりたい”と思って転籍してきてくれる人材は、やりがいをもって働いてくれています。食物を育てる喜びは、その成長を目に見えて感じられるところにあるのかもしれませんね」
ニューガイア キウイファームでは、若手からシニア世代まで、幅広い人材が活躍中だ。良質なキウイを育てるには、細かな作業が不可欠。収穫後の剪定、施肥、受粉や補植にメンテナンス…と1年を通じて作業量は多く、面積が広大になればさらに人手が不可欠となる。こうした人材が増えることで、農園全体に目が行き渡り、収穫量にも結びついてくる。
▲グループ企業からニューガイアアグリに転籍した大森美和さん(右)
地域活性化、農業が夢を育む
営農開始から約7年、園地を拡大するとともに、人材を確保し、収穫量を増やしてきたニューガイアアグリ。順調には見えるが、高嶋代表は「まだまだ、これからです」と更なる展望を語ってくれた。
「確かに収穫量が増えている実感はあります。ただし、確実に黒字化していくためには、すべての園地が1ha当たりの収穫量30tをクリアしていかなければいけません。そのためには、細かな作業をより丁寧に行っていく技術、農業のプロを目指すのだという高い意識をもって常にスキルアップしていくことは必須です。また、5~10%程度は買取対象にならない規格外品が出ますので、フードロス、SDG’Sの観点からもこれらを有効に利用すべく、オリジナル商品の開発も進めています。今後もアグリ事業を継続していけば、温暖化対策への取り組みとなる緑の再生にも貢献できますし、若者からシニアまで誰もが生き生きと働ける職場を作り、地元の活性化にも繋げていきたいですね」
キウイに限定されない新しい作目への挑戦、複合農業化、コントラクター事業への参入も、高嶋代表の頭にある。
芝浦グループから生まれた農業のプロ集団が、農業を通じて大きな夢を育んでいく。
農業を行う法人名 ニューガイアアグリ株式会社 |