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白ねぎ栽培では、参入企業等を中心に経営規模が拡大しつつありますが、圃場の大規模化や散在などが原因で生育不良の見落としによる収量や品質の低下が問題となっています。このため、ドローンによる空撮画像(RGB画像 = デジカメと同じ画像)を活用した生育診断技術の開発に取り組んでいます。
これまでの研究では、空撮画像を植物の活性を表現できるNDVI画像に変換すれば、生育状況を把握できることを確認しましたが、初期費用やランニングコストが高いことが課題でした。そこで、低コストで、NDVI画像と同等に生育状況が把握できる「HSV色空間および二値化処理技術」を開発しました。
また、この技術を用いて大分工業高等専門学校(以下、高専)との共同研究により、簡易な生育診断ソフトを開発しました。
アザミウマ類はオオバを食害する重要害虫ですが、生産現場で化学農薬による防除効果の低下が懸念されたため、効果の高い農薬の解明と天敵生物資材を活用したIPM防除(総合防除)の開発と普及に取り組んでいます。
アザミウマ類の天敵スワルスキーカブリダニと天敵のすみかとなるバンカーシートから構成されます。カブリダニは、アザミウマ類が発生していない場合、花粉を食べて生き残るため、オオバのような花が咲かない作物では定着が課題でした。本資材は、バンカーシート内で長期間にわたってカブリダニが増殖・放出されるため、最初に放出されたカブリダニが定着できなくても、長期間の防除効果が期待できます。炭酸ガス施用&温度制御で「ベリーツ」の収量向上!
イチゴの収量を上げるためには、日射量が少ない厳寒期にハウス内の温度や炭酸ガス濃度などをイチゴの生育に適した状態に制御し、光合成が促進される管理が必要です(このような技術を「環境制御技術」と言います)。このため現地で普及が進む「ベリーツ(大分県育成品種)」に適した「環境制御技術」を検討し、その効果を検証しました。
イチゴの収量を上げるためには、日射量が少ない厳寒期にハウス内の温度や炭酸ガス濃度などをイチゴの生育に適した状態に制御し、光合成が促進される管理が必要です(このような技術を「環境制御技術」と言います)。このため現地で普及が進む「ベリーツ(大分県育成品種)」に適した「環境制御技術」を検討し、その効果を検証しました。
県内の白ねぎ栽培において、4~5月頃に定植する夏越し作型では、梅雨の大雨や夏期の高温・過乾燥などによる生育停滞が問題となっています。
研究Now114で報告したように、葉鞘径(白い部分の太さ)を慣行の1.5倍となるよう二次育苗する技術(大苗育苗技術)を開発し、夏越し作型でも生育を安定させることができました。
そこで、さらなる生産性向上に向けて、大苗を用いた夏越し作型に適した品種を選定するための栽培試験を行いました。
近年問題となっているTSWV(黄化えそ病)は、ピーマンに一旦侵入すると株の引き抜きが必要になり、収穫が皆無になる恐れのある重要なウイルス病です。
この対策として、TSWVを媒介するアザミウマの防除を行うとともに、本病に抵抗性を持っている品種「TSRさらら」の導入が生産現場で進んでいます。
そこで、「TSRさらら」と県内の主力品種である「さらら」の品質や収量の違いについて明らかにしました。
県内の茶産地では、茶を高品質な時期に出来るだけ多く摘採することが望まれています。しかし、事前に適期を予測するには長い経験が必要であり、茶園ごとの摘採時期の判断に苦慮しているのが現状でした。
そこで、茶の成分値(全窒素注1、NDF注2)に着目し、一番茶の摘採適期を予測する方法の確立に取り組んでいます。
注1)全窒素:多く含む方が品質が高いとされ、茶芽の生育が進むにつれて減少する。
注2)NDF(中性デタージェント繊維):細胞壁の成分で、茶芽の生育が進むにつれて増加する。
県内の茶産地では、茶を高品質な時期に出来るだけ多く摘採する(お茶を摘み取る)ことが望まれています。しかし、大規模経営体においては、全ての茶園を適期に摘採することができずに、品質低下を招くことが問題となっていました。そこで、春整枝の時期を調整して適期を拡大する技術の開発に取り組みました。
イチゴに被害を与えるハダニやアブラムシなどは、化学農薬による防除効果が低下しているため、ミヤコバンカー等の天敵生物資材を活用したIPM防除(総合防除)の開発と普及に取り組んでいます。
【天敵生物資材“ミヤコバンカー”】ハダニの天敵ミヤコカブリダニと天敵の棲家となるバンカーシートから構成され、バンカー内で増殖したカブリダニが、長期間、イチゴに放出され、ハダニを食べることで防除されます。
施設栽培では、かん水による適切な土壌水分管理が重要で、ほ場全体の土壌水分状態の把握が必要です。そこで、多数のセンサによる土壌水分測定法を考案しました(図1)。
さらに、実用化には、ほ場に必要なセンサ数と配置方法を明らかにする必要があるため、大分大学と共同研究を行い、統計学を用いた土壌水分測定法を開発しました。 (2020年特許申請)
今回、本測定法の開発にあたって、小ネギ施設ほ場で必要なセンサ数と配置を明らかにした事例について紹介します。
転炉スラグは、酸性土壌の矯正効果を長期間持続することが可能な資材です。
施用により、土壌のアルカリ化が持続することで、根こぶ病など、土壌病害の抑制効果が確認されています。
これらの効果が期待できるものの、これまで使用してきた散布機(ライムソワー)では長時間かかるため、生産者から改善の要望がありました。
そこで、畜産現場でたい肥のほ場に散布に使用される機械「マニュアスプレッダー」を用いて、散布労力の大幅な軽減を目指しました。
アザミウマは体長が1~2mmの小さな虫ですが、ピーマン栽培で最も注意が必要な害虫です。アザミウマは黄化えそ病というウイルス病を媒介し、この病気にかかったピーマンは葉が正常に展開しなくなり、枯れてしまいます。
今回の研究の主役であるタバコカスミカメは大分県内にも生息する雑食性のカメムシの仲間で、アザミウマの天敵として知られています。この天敵は様々な品目で利用が検討されていますが、夏秋ピーマンにおける研究はこれまでありませんでした。そこで、タバコカスミカメを夏秋ピーマンでアザミウマ類防除を目的に利用可能かどうか検討しました。
県内の白ねぎ栽培において、4~5月頃に定植する夏越し作型では、梅雨の大雨や夏期の高温・過乾燥などによる生育停滞が問題となっています。
そこで、厳しい気象条件下での生育の安定化が期待できる大苗(葉鞘径(白い部分の太さ)が慣行の約1.5倍)を梅雨明け後の7月に定植する、夏越し作型の生育安定に向けた技術の確立を進めています。
県内の露地野菜栽培において、参入企業等を中心に経営規模の拡大が進みつつあります。しかし、中山間地域では圃場が広く散在しているため、生育不良の見落としなどによる収量や品質の低下が問題となっています。そこで、マルチコプター(写真右)による空撮画像を用いた迅速な生育診断技術の確立を目指して研究に取り組んでいます。
白ねぎでは全重(g/m2)とNDVI 値に相関が認められ、NDVI により生育診断、収量予測などへの活用の可能性が示されました。
ネギべと病は白ネギ栽培において重要な病害です。特に春の安定生産に大きく関わるため、病害虫対策チームでは平成30年から対策試験を実施し、ネギべと病に有効な薬剤の探索及び効果的な散布時期の検討を行いました。その結果、保護殺菌剤マンゼブを含む農薬の予防効果が高いことがわかりました。また、マンゼブを含む農薬を用いた防除体系を豊後高田市で令和元年12月から2年6月に実証した結果、十分な防除効果を確認しました。
県内の茶産地では、茶を高品質な時期に出来るだけ多く摘採する(お茶を摘み取る)ことが望まれています。しかし事前に適期を予測するには長い経験が必要であり、摘み取り時期の判断に苦慮しているのが現状でした。
そこで、一番茶の摘採時期を予測する方法の確立に取り組みました。
右の写真は一番茶の葉がおよそ3枚伸びてきたころの茶園で、この頃に茶葉の成分分析を行い、摘採時期の予測に活用します。
大分県のイチゴ栽培は高設栽培が全体の8割以上を占めています。イチゴ栽培においてかん水量や施肥量は単収や品質向上に欠かせない重要なポイントですが、数値的かつタイムリーに把握することが困難であり、勘に頼った管理がされてきました。
そこで、産業科学技術センターが開発した排液センサ(注)を活用して、かん水及び施肥量を数値的かつタイムリーに管理する技術を確立しました。
(注)排液センサは、高設ベッドから排出される排液に注目して、その量や肥料濃度(ECより推定)を自動で測定する装置で、通信装置を経由してパソコンやスマートフォンにデータを送り、グラフで分かりやすく表示することができます。産業科学技術センター、北部振興局及び現地協力農家と連携して、この装置でかん水量や施肥量を管理する実用的な研究を行っています。
ネギ白絹病は根深ネギ栽培において重要な病害です。特に夏場の安定生産に大きく関わるため、病害虫対策チームでは萎凋病とともに対策試験を実施し、白絹病に対してのフルトラニル(モンカット)剤の有効性を示したところです。しかしながら、一部の生産現場ではフルトラニル剤の効果が不十分である事例が報告されたため、薬剤感受性検定の実施と、現場で確認できる検定培地の作成を行いました。
小ネギ栽培において、水管理(かん水)は収量・品質に大きく影響する技術です。しかし現場では、生産者が経験と勘で水管理をしているため、収量が不安定になっています。
土壌・環境チームでは、生産者が同じ基準で水管理が行えるように、次世代型土壌水分センサーを活用し、水管理技術の見える化に取り組んでいます。
このセンサーを使えば、土壌水分がいつでもどこでも確認できます。
大分県イチゴ新品種「大分6号」は、果皮色が鮮やかな赤色で、糖度が高いという特徴をもっており、平成29年に「ベリーツ」としてデビューしました。平成30年からはさらに栽培面積が拡大しています。
「大分6号」はこれまでに作られてきた品種に比べ、花芽分化が早く11月上旬から出荷できます。しかし、イチゴの特性上、出荷開始時期が早いと、需要期である12月のクリスマスシーズンに出荷量が少なくなる傾向があります。
そこで、農業研究部果菜類チームでは、12月のクリスマスシーズンに多く出荷できるよう、花芽分化時期を遅らせる技術を開発しました。
花芽分化は育苗期の低温・短日・低窒素(肥料分が少ない)条件で誘導されるため、育苗期の肥料の種類や量、施肥時期などを検討し、技術開発を行いました。
本県では、増加する業務加工用キャベツの需要に対応する産地の育成を推進し、周年安定供給を目指しています。しかし、本県における4、5月出荷に関する栽培技術が明らかでなく、適した品種や定植時期などについても不明でした。
そこで、まず4月どりに適した品種および定植時期を明らかにしたので紹介します。
シロイチモジヨトウは根深ネギ栽培において重要な防除対象害虫ですが、生産現場で薬剤の感受性低下が懸念されたため、薬剤感受性低下の実態および有効な薬剤を明らかにしました。
パプリカはこれまで国内での生産があまり行われておらず、韓国・オランダ等からの輸入品が国内流通量の約8割を占めていました。しかし、近年需要の高まりから、国内でも生産が盛んになっており、本県においても栽培面積が増加しています。
このような中で、生産現場からは本県での栽培に適した品種(果色別)や仕立て方法を明らかにして欲しい、という声があがっています。
そこで、農業研究部では本県での栽培に適した品種の特性・仕立て方法を明らかにするため、九重町にある株式会社タカヒコアグロビジネス(愛彩ファーム九重)の生産圃場で現地調査を行っています。
新日鐵住金大分製鐵所で製鐵の副産物として発生する転炉スラグ(右の写真)は、道路用路盤材や地盤改良材、セメント原料等に再資源化されています。
この転炉スラグはアルカリ分の他、リン酸、石灰、ケイ酸、苦土など作物生産に必要な成分を多く含むため、農地への投入により、土壌改良が期待できます。
そこで、農業研究部では平成28年度から以下の試験に取り組んでいます。
・白ねぎにおける転炉スラグによる病害抑制効果の確認
・ピーマン・ホウレンソウ・キャベツなどの栄養成分含有量向上効果の確認
・土壌や地下水に対する影響の確認
根深ネギ栽培では、移植機で省力的に定植が可能な育苗トレイによる育苗が広く行われています。しかし、小苗であるため定植初期の生育が不安定、収穫までの期間が長いといった問題点があります。そこで、小苗を長さ約14m、幅約4cmの細長い育苗容器「ベルトプランター」に仮植し二次育苗することで、既存の移植機で定植が可能な大苗に育苗する技術を開発しました。
近年、化学農薬の削減や薬剤抵抗性害虫の対策として、天敵を利用した害虫防除が行われています。特にピーマンは天敵との相性が良く、ハウス栽培において天敵の利用が進んでいます。しかし、天敵の利用にはコツが必要であるため、病害虫対策チームでは天敵を簡単かつ効果的に利用するための研究を行っています。
園芸品目では炭酸ガスを施用すると収量が向上するとされています。今回、冬春トマトについて、炭酸ガスの施用(灯油燃焼方式)が、収量及び品質に与える効果について調査を行いました。
県内の農業参入企業が栽培している農産物の栄養性・機能性成分の調査を行い、これら成分を安定・向上させる栽培技術の開発や農産物の高付加価値化に向けた取り組みを支援します。
特に、収穫時期や出荷規格(果実重)などが栄養性・機能性成分含量に及ぼす影響を明らかにしていきます。
大分県の茶栽培面積は年々増加していますが、翌年の収量に影響することから三番茶が収穫(=摘採)できない県内一部の生産現場においては、5月の一番茶、6月の二番茶に続く第三の収穫で収入を確保する技術が求められています。
そこで当チームでは高品質な秋冬番茶を収穫するための「秋冬番茶摘採技術」の確立に取り組んでいます。
大分県は西日本を代表するニラの産地です。夏期に出荷するニラは、強日射や高温により葉先が枯れる症状が発生し、市場評価の低下が問題となっていました。
そこで、遮光資材をハウス天井中央部に展張することで、ハウス内の気温を低下させ、葉先枯れを抑制、低減する技術を確立しました。
本県のイチゴ栽培では、チビクロバネキノコバエ(Bradysiadifformis Frey:写真右)による被害が確認されています。本虫が多発生すると、幼虫がクラウン内部へ食入したり、花を加害(写真左)したりするため、新芽の伸長停滞や奇形果が生じ減収につながります。
イチゴでは、使用可能な農薬は限られており、有効な防除技術は確立されていません。そのため、チビクロバネキノコバエ幼虫に有効な薬剤を明らかにしました。
県内の製鉄所での製鋼過程で発生する転炉スラグ(鉱さい)は、肥料成分である石灰、リン酸、ケイ酸、苦土、鉄、マンガンなどを含んでおり(右図)、農業分野において、非常に魅力ある地域資源の一つとなっています。
県内に広く分布する火山灰土壌では、リン酸は土壌中の活性アルミニウム等と反応して不溶化し、植物に利用されない形で蓄積されています。製鋼スラグを施用することで、リン酸の利用率が向上する可能性があり、近年のリン酸資源枯渇の問題等からも、多くの作物で幅広い利用が期待されています。
タバコガ類はピーマン果実を食害する重要害虫です。これまでの農薬を主体とした防除対策では効果が不十分であったため、防虫ネットを展張する方法を検討した結果、ほぼ完全に被害を防げることが明らかになりました。県内最大の産地である豊後大野市の間口3mハウスでは、サイド・谷分離方式によるネット被覆(下図)が実用化され、現在約75%で利用されています。
今回は、もう一つの産地である臼杵市野津町の間口1.8mハウスにおいて実用的な全面展張方式の研究を行いました。
防虫ネットを利用することで、農薬散布回数を削減し、より安全・安心な大分ピーマンの生産を行うことができます。
イチゴの収量と品質を上げるには、肥料、水、温度、炭酸ガスをバランスよく供給するなど、ハウス内環境を整えて、光合成を促すことが重要です。
そこで、当チームでは、炭酸ガスの施用方法の違いによる収量と品質への影響を検討しました。
大分県は、西日本を代表するニラの産地で、出荷量は全国上位に位置しています。県内を含め、福岡・広島・大阪・京都などが主な出荷先となっていますが、高温期に出荷するニラは、市場出荷後に葉の黄化や腐敗が見られ、鮮度が低下することが問題となっていました。
そこで、高温期の鮮度保持技術の確立に向けた研究を行い、予冷と包装方法等がニラの品質低下に与える影響を明らかにしました。
大分県は、”お~いお茶”でブランド力のある(株)伊藤園と組んで、「ドリンク茶」用茶葉生産団地の育成と振興をすすめています。
農業研究部茶業チームは、このような大規模な茶園に発生する病害虫の防除技術の開発に取り組んでいます。
「ドリンク茶」とは、ペットボトル等で市販されている今一番売れている飲料水で、一定基準(香り、色等)をクリアした大分県産の「茶葉」が”お~いお茶”の中に入っています。
大分県では、新たなブランド品として、高糖度カンショ「甘太くん」の振興に積極的に取り組んでいます。
「甘太くん」とは、一定基準(貯蔵期間、糖度等)をクリアした大分県産「べにはるか」(品種名)の商品名(全農が商標登録済み)で、しっとりとした食感と甘さが特徴です。
そこで、当センターでは、「甘太くん」のブランド化に向け、「べにはるか」の栽培や貯蔵試験、ウイルスフリー苗増殖に取り組んでいます。
大分県のピーマンは、IPM(総合的病害虫管理)(※1)による減農薬栽培に積極的に取り組んでいます。
1.防虫ネット被覆によるタバコガ対策
流通過程でピーマンが腐る「軟腐病」を、タバコガ類が媒介することを明らかにしました。タバコガ類防除のため防虫ネット被覆(写真左)が有効であることを確認しました。
2.新しい天敵利用
アザミウマ類、コナジラミ類、ハダニ類およびチャノホコリダニを捕食する天敵(スワルスキーカブリダニ)を利用する技術を確立しました。
3.新しいうどんこ病防除
”簡単+低コスト+有効”な硫黄粉剤(※2)の株元処理(写真右)の方法を確立しました。
これらを組みあわせた実証試験に取り組みながら、一層の技術改良と減農薬栽培に向けた取り組みを実践しています。
(※1)病害虫の発生状況に応じて、天敵(生物的防除)や防虫ネット(物理的防除)、農薬(化学的防除)等の防除方法を適切に組み合わせ、環境への負荷を低減しつつ、病害虫の発生を抑制する防除技術のこと。
(※2)有機JAS適合農薬