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〇経営体情報 |
〇参入スケジュール |
〇活用した支援事業 |
創業から130年以上の歴史ある香料メーカーと、佐伯市が多くの地権者の許可を得て集約した海辺のレモン団地が、幸運なマッチングに成功。国産素材を活用した香料開発に賭ける同社の挑戦に、拍車がかかっています。初の本格収穫を迎えた2024年の晩秋、そのプロジェクトの全容を小川香料おおいた佐伯農場(株)の皆さんに振り返っていただきました。
【写真左から】大越諒さん、守部璃央さん、上野俊輔社長、辻貴大さん
日本の総合香料メーカーとして、「日本の魅力を香りにかえて、世界中のみなさまにお届けしたい」
という想いのもと、私たちは多様な日本産の農林水産物から抽出した天然精油&エキストラクトを取り揃えています。
天然物の恩恵を受ける香料メーカーとして持続可能な事業を目指す上で、香料原料の持続可能な調達が重要になります。農業生産者や生産量が減少するという課題の中、自ら農業に携わり、特に持続可能な循環型の農業を目指しながら、未来の農業の発展にも貢献していきたいと考えております。
上野 全く別の原料探索で来県したことがきっかけです。その際、マリンレモンの生産現場を紹介してもらい、レモンというと瀬戸内で生産されているイメージだったので、「大分でも栽培できるのか」とまずは驚きました。
上野 訪ねた果樹園で、摘みたてのフレッシュなマリンレモンの香りに感動しました。レモンは、フレーバーにもフレグランスにも使われる重要な香調であり、自ら栽培することで香りにこだわった香料原料ができるのではないかと考えました。
上野 参入を検討しているときにちょうどレモン栽培が可能な温暖な気候である佐伯市米水津に、まとまった参入候補地がある」と相談窓口である大分県庁より紹介がありました。佐伯市で果樹の耕作放棄地を集約するプロジェクトが進んでおり、「さまざまな事業を活用しながら参入できる」とご提案いただきました。市の担当者の方が、土地を集約するため、相当数いらっしゃる地権者の1軒1軒をまわって、ご理解いただけるよう説明してくださったと聞いています。当初は7haくらいでしたが、私たちが参入することが決まり改めて説明会を開いたところ、土地を貸してくださる方が増え、最終的に8haになりました。大事な土地の選定において、タイミング良く準備の整った園地を紹介していただき、それからわずか1年あまりでスピード参入が叶ったのは幸運でした。
辻 定植ができるようになったのは、2021年でした。まずは2haから始めることになり、上野と私が常駐するようになったのですが、それまでは2人とも開発に携わっており、最初は農場に来ても何をして良いか分からない状態でした。
上野 ただし、参入が決まった後、大分県の主導で営農開始前後のスケジュールを立ててくださり、それに沿って進めばいいという心強さはありました。そして大分県、佐伯市、JAグループを巻き込んだ“PT(プロジェクトチーム)”が結成され、農地の造成から設計、定植、栽培、収穫までを全面バックアップしてくださいました。大分県は行政のサポートが充実しており、参入したら「あとは自分たちで頑張ってください」と言われるのだと想像していましたが、参入して、収穫できるまでのその間すべてにおいて伴走してくださるのは有り難く、心強かったです。これらサポートなくしては、ここまで順調に進まなかったと思います。
辻 それから、地元で雇用した方の協力も大きかったです。造成工事の際、私たちと地元の方々との間に入ってクレームが出ないよう調整してくださったり、栽培の“いろは”や機械の使い方なども教えてもらいました。また定植する時、測量機を用いて植える場所を決めてくださったおかげで、今、園内に美しく整然とレモンの木が並んでいます。
また、JA全農おおいたの方が頻繁に営農指導に来てくださったり、大分県が行っているハウスみかんのファーマーズスクールで座学に参加させていただいたりして、少しずつ必要な知識を身につけていきました。
上野 私たちは小川香料(株)の社員で、おおいた佐伯農場に出向という形で配属されています。現在は社員4名が佐伯市内で暮らしながら、地元で雇用した方とともに5人体制で生産に取り組んでいます。
上野 2024年より収穫を開始し、計画量より1.5倍の収穫量となり、栽培は順調に進んでいます。果樹は未収益期間が長く、経営的に大変ですが、果樹経など様々な補助事業のおかげで、非常に助かっています。販売方針としては一部を青果用として出荷販売し、残りを搾汁して果汁と香料原料用の精油として小川香料(株)に販売します。まずは早期成園化を目指し、しっかり営農していきたいと思います。
上野 「マリンレモン」というのは佐伯市の商標名で、品種としてはアレンユーレカを栽培しています。いわゆる王道のレモンの香りが特徴ですが、育ててみると、果実が緑色の頃から黄色く熟すまでの間、収穫時期によって香りが変化します。香料にするにはどの時期が一番良いか?自分たちで摘熟期を見極められることに、生産から手掛けるメリットを感じています。
大越 私は2023年に営業職から生産現場に異動してきて、ファーマーズスクールで習ったことや先輩の辻から教わったことが成果として現れる瞬間、瞬間に農業の面白さを感じています。ここで育ったレモンが原料として販売されていく楽しみもあります。
守部 僕は、初めて大分の農場に来た時、8haという農場の広さに衝撃を受けました。僕が知っている“農業”とはまったく違い、この規模で農業をすることに興味を持って働いています。
大越 生産に携わることで、当初の目的である「日本の農産物から国産の香料をつくっている」という実感もありますし、マリンレモンというブランド価値を発信できることにもやりがいを感じます。
大越 本格的に収穫ができるようになった今、ようやく“スタートラインに立った”と思っています。これだけ大規模な農場ですから、会社としてしっかり売上を上げなければならないと思っているので、今後は雇用(人件費)を含めたコストをしっかり意識していきたいです。また大規模団地では、大型機械も導入しやすいので、先端技術を活用するなどして、作業をする人の負担を減らし、苦労が多く大変だという従来の農業のイメージとのギャップを埋めていきたいとも考えています。
上野 私たちはプロジェクトチームのサポートを受けられたので安心でしたが、営農を始めるまでの準備が大変なので、造成の頃からのスケジュールをしっかりと立てて、計画的に進めることをおすすめしたいです。
守部 僕は2024年に入社したばかりなので、まだ未熟ですが、先輩方に背中を見せていただいて、「早く力になりたい!」と思っています。そしていつか後輩が入ってきたときに、僕も背中を見せられるよう頑張りたいです。
大越 私は、大規模園芸団地で持続的な農業ができるような、システムを構築したいです。それから、営業をしていた経験を活かし、販促のサポートができるよう小川香料(株)の強みになるような情報を発信したいと思いますし、何より地域の方々の支えがあることを忘れずに、1歩1歩、真摯に農業に取り組んでいきたいです。
辻 まずは小川香料おおいた佐伯農場(株)の自立を目指し、プロの農家として柑橘を栽培できるようになるのが目標。今後も知識や技術を増やし、いずれは大規模園芸団地を運営していける人材になりたいです。
上野 レモンの香料は需要が高いので、将来的には生産量を増やしたいと考えています。それには、まだまだ成園化できる土地が必要です。この団地周辺には、まだ耕作放棄地があるので、地権者の方に「貸してもいい」と思っていただけるよう、私たちの事業をしっかりと認めていただけるよう努力していきたいと思います。