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台風対策マニュアル(果樹)
事前対策
1.恒久的対策(防風林)
(1)風害を軽減するためには、防風林や防風ネットで風圧を低下させることが必要である。主に防風樹に使用されている樹種の特徴は以下のとおりである。
ア.イヌマキ:初期成育は遅いが、潮風害に強く管理しやすい。
イ.スギ、ヒノキ:生育は早いが塩害に弱く、強く刈り込むと枯死しやすいのでこまめな手入れが必要である。
ウ.メタセコイヤ:生育は早く、刈り込みに強いので管理は容易であるが、落葉樹であるので寒風を防ぐ効果は低い。
エ.カシ: 台風による倒木に強く、強い刈り込み似も耐え、萌芽力が強い
(2)防風林は図のように密閉度70%程度にし、適度に風通しを良くするのがよい。
(3)防風ネットは短時間に設置でき、防風効果を発揮するが、強い支柱を必要とし、コストがかかる。
2.カンキツ(露地栽培)
(1)風害
ア.高接ぎ樹は接ぎ木した枝に支柱を立てて、枝折れを防止する。若木、苗木も丈夫 な支柱を立てて倒伏を防止する。
イ.かいよう病に弱い品種ではコサイドボルド-など散布し、予防する。
ウ.マルチ栽培では強風でマルチが飛ばないように、風上側を中心に重しを増やすとともに破損した部分を補修する。
(2)水害、湿害
ア.ミカン園外周部の排水路を整備するとともに。水が溜まった場合は速やかに排水する。
(3)塩害(潮風害)
ア.防風樹を整備する。海岸側の防風樹はやや密閉度を高めにし、塩水が葉にかからないようにする。防風ネットでは効果が少ない。
3.ハウスミカン
(ハウスの補強)
(1)褄面の被害を防ぐために、補強パイプ、ワイヤーなどで補強する。
(2)ハウス本体のゆれを少なくするために、すじかい、ワイヤー等で強化する。
(3)ビニールのバタツキを除くために、ハウスネットを使用する。(妻部 天井部)
(4)防風網を施し、ハウスへの風をやわらげる。
(5)ハウス周囲に側溝を施し、排水させることで基礎を安定させる。
(ハウスの点検)
(1)ビニールが破れていないか点検し、破れは完全に補修する。
(2)ブレース、ボルト・ナット、Tバンドなどの金具がゆるんでないか点検し、締め直す。
(3)ハウスバンドの切れ、ゆるみ、らせん杭、バンド受けの鉄線ワイヤーのゆるみがないか点検し、整備する。
(台風が近づいてきたら)
(1)ビニールを取り除いても作物に支障がない場合は取り除く。
(2)バンドレスハウスで天井フィルムを全開に巻き上げた場合、巻き上げ不十分な部分が風を受け、アーチが曲がったりする事故が見られる。このような場合は天井の直管にヒモで数カ所縛って固定することで吹き飛ばされるのを防ぐことができる。
(3)ハウスの周囲に風でとばされるものがないか点検し、除去する。
(4)出入口、吸気口から風が入りこまないよう、ひもで取手を固定する。
(5)加温機の煙突は撤去する。
(6)加温機、油タンクは倒壊しないよう、杭などで固定し、油漏れのないようにバルブを締める。
(7)換気扇のついているハウスは、吸入口の数を減らして換気扇を回す。ただし、吸気口を完全に閉めると負圧がかかりすぎてブレーカーが落ち、換気扇が停止する場合があるので注意する。
4.ナシ
(被害の発生様相)
(1)成熟期を迎えた品種では落果の被害が著しい。果実の落果は強風によって棚が上下に揺れる場合に最も多い。袋をかけた果実では風圧で果実が左右にゆれ、離層部分から落下する。また、側枝を棚に固定していない場合は、側枝が棚から落ちて折損する。
(2)棚上の新梢の葉は強風によって、破れたり、ちぎれたりする。9月までに大部分の葉がなくなると、再発芽や不時開花し、翌年の着花不足や樹勢低下を生じる。
(恒久的対策)
(1)園地の設定
園の造成、植栽に当たっては風当たりの強い場所を避ける。
(2)防風施設の整備
風当たりの強い園では、防風垣(カンキツの項参照)や防風網を設置する。
(3)棚の鋼管補強
ナシ園では、鋼管補強によるナシ棚の固定を行う。直径3.2mmの鋼管を 3.5×3.5m間隔で棚面に設置し、棚面の鋼管を支える支柱を3.5m間隔で設置する。補強を行った鋼管と棚面の鋼線とをしっかり結束する。また、主枝、亜主枝、側枝等は、できるだけ鋼管に誘引するように心がける。
台風襲来時には、追加支柱による補強や園内破風網を設置すると落果防止効果がより高くなる。
(直前の対策)
(1)落果の防止
棚仕立てでは上下動を防ぐことが重要で棚の内部にアンカーを設け引き下げたり、鋼管や竹等を利用して棚面の突き上げを行い、棚面の上下動を抑制する。
(2)誘引の徹底
主枝、亜主枝等を棚面としっかり固定すると棚面の揺れ防止の効果がある。また、結果枝は、できる限り揺れ防止のため多点誘引を行う。
(3)平棚部の開口部の閉鎖
平棚園では出入口などの開口部から強風が吹き込み、棚面を吹き上げるように揺らすので、開口部をしっかり閉鎖する。
(4)破風網の設置
鋼管補強を行っているナシ園では、園内破風網の設置(7m間隔以下)を行う。
(5)ナシの袋かけ
ナシ園で風当たりの強い園や場所では、果実袋の枝かけ法を実施する。
果実袋の枝かけや短果枝かけに使用する果実袋は、撥水処理が施された雨などで容易に破れないものを使用する。収穫直前には、果実が果実袋と密着し、果実袋が果実を下から支える役割を果たすので、果実袋の底は抜け落ちないようしっかりとした果実袋を使用する。果実袋の枝かけや短果枝かけは、袋のかけ口に隙間が出来やすく、カイガラムシ類の被害を受けやすいので。袋と枝との間の隙間を極力少なくするとともに、袋かけ前の防除を徹底する。
(6)園内外の排水対策
園内外の排水をよくし、停滞水を排除する。また、土砂崩れの心配がある場合は、シート等で地面を覆う等の防止策を講じる。
(7)棚整備
棚の点検を行い、傷んだ部分を補強する。
(8)ハウス栽培
(ハウスミカンの項参照)
(9)果実の収穫
既に収穫期を迎えている樹種では、強風による落果が懸念されるので、収穫可能な果実は出来るだけ事前に収穫する。
(10)倒伏
苗木や若木では主枝が折損しなように枝柱を添えて棚に固定する。
5.ブドウ
(被害の発生様相)
ブドウでは強風や雨によって袋が破れ、ブルームが落ち品質が低下する。さらに被害の著しい場合は袋内で脱粒する。
ブドウの葉は大きくてもろいので、破損しやすく、著しい場合はちぎれてしまう。早期(9月まで)に落葉すると糖度の上昇は期待出来ないだけでなく、登熟不良となり、翌年の花芽が不足する。
(恒久的対策)
(1)園地の設定と防風施設の整備
園の造成、植栽に当たっては風当たりの強い場所を避けるとともに、風当たりの強い園では、防風垣(カンキツの項参照)を設置する。
(直前の対策)
(1)落果の防止
棚仕立てでは上下動を防ぐことが重要で棚の内部にアンカーを設け引き下げたり、鋼管や竹等を利用して棚面の突き上げを行い、棚面の上下動を抑制する。また、主枝、亜主枝、側枝、結果枝は、できるだけ棚に結束する。
(2)園内外の排水対策(ナシの項参照)
(3)ハウス栽培(ハウスミカンの項参照)
(4)果実の収穫(ナシの項参照)
(5)苗木や若木では主枝が折損しなように枝柱を添えて棚に固定するとともに新梢は棚に結束する。
6.キウイフルーツ
(被害の発生様相)
キウイフルーツの葉は大きくもろいので破損しやすく、潮風害に弱い。落葉すると結果母枝から再発芽し、翌年の着果が不足する。成熟期の果実は棚の揺れや風圧によって落果する。また、残った果実も直射日光があたることにより空洞化が発生しやすく、早期に軟化する。
(恒久的対策)
(1)防風樹の整備
カンキツの項参照
(2)排水路の整備
カンキツの項参照
(直前の対策)
(1)結果枝の誘引、結束
台風通過後の対策
1.カンキツ(露地栽培)
(1)風害
ア.強風により果実が損傷を受け、果実概観が低下するだけでなく、葉が傷ついたり、ちぎれたりすることにより光合成能力が低下し、糖度の上昇が鈍化する。また、風圧が大きい場合は枝折れが発生し、特に高接ぎ樹で枝が裂けやすい。
イ.根張りの不十分な若木は倒伏しやすく、倒伏すると根が切断され、樹勢が低下する。
ウ.中晩生カンキツやカボスなどかいよう病に弱い品種では傷口から病原菌が侵入し、感染しやすい。
エ.倒伏した樹は土が軟らかいうちに、根が切れないようにゆっくりと起こし、支柱をする。枝裂けは接ぎロウを塗り支柱をする。枝折れはきれいに切り取って接ぎロウを塗り癒合を促す。
オ.かいよう病に弱い品種では薬剤散布し、予防する。
(2)水害、湿害
ア.台風に伴う大雨では、園外から雨水とともに土砂が流入したり、表土が流出したりする。また、排水不良園では水が溜まり湿害をおこす。3日間水が溜まった状態では土壌中の酸素濃度が低下し、カラタチの根の活力は低下し、やがて枯死する。
イ.ミカン園外周部の排水路を整備するとともに。水が溜まった場合は速やかに排水する。
(3)塩害(潮風害)
ア.被害の大きいのは降雨の少ない風台風で海岸から海水を含んだ強風が吹きつける状況の中で海水が葉に付着し、濃度障害をおこす場合である。当初は被害は軽いと思われる場合でも、数日後から落葉し始め、1ヶ月後まで及ぶことがある。
イ.落葉は風上側が著しく、ひどい場合は全落葉し、果実だけが残る。樹勢の弱い樹ほど被害は著しい。全落葉した樹の果実の糖度は上昇は期待出来ないたけでなく、細根が枯死し、樹勢低下など影響は翌年にも及ぶ。
ウ.葉をなめてしょっぱいようであれば、台風通過後6時間以内に十分な水で洗い流す。時間がたつと効果が低下する。
エ.落葉した場合は葉果比に会わせて摘果する。大部分が落葉した場合は表層部を少し残して摘果するとともに、日焼け防止剤(クレフノン)を塗布する。
オ.落葉の著しい場合は細根が枯死するので土壌が乾燥した場合は灌水する。再発芽した場合は液肥を葉面散布し、緑化を促進する。大量の肥料は根を傷めるので少量づつ分施するとともに完熟堆肥を施用する
2.ハウスミカン
1.カンキツ(露地栽培)の項参照
3.ナシ
(1)潮風害処理
潮風害の被害を受けると落葉が激しくなるので、台風直後の塩分の確認や水洗い等の事後措置を徹底する。
(2)倒伏樹処理
倒伏樹は早期に立て直し、支柱で固定する。根が露出した場合は乾燥しないように土盛りし、マルチや潅水を行い、乾燥防止と新根発生に努める。
(3)樹体保護
太枝が裂けた場合は立て直し後、癒合促進剤を塗布し、もとの状態に結束しておく。枝裂け部分には雨水が浸入しないように防水フィルムを巻き付けておく。
(4)施設補修
果樹棚、施設の損傷を確認し、補修を行う。
(5)病害虫防除
樹勢が弱ると紋羽病や胴枯病などが発生しやすくなる。また、病原菌が風雨で飛散し、発生が多くなる可能性が高くなる。台風通過後は速やかに落葉、落果処理を行い、病害発生抑制のため、農薬使用基準を遵守し、殺菌剤の散布を行う。
(6)土壌管理及び施肥
落葉の激しい場合は、断根を伴う土壌改良は中止し、発芽の心配のなくなる11月以降に施肥時期を遅らせ、分施を行い根を保護するようにする。
(7)改植
被害の大きい樹では改植を検討する。
4.ブドウ
3.ナシの項参照
5.キウイフルーツ
(1)落葉、落下果実の処分と残存果の取り扱い
落下した果実、葉は、土中に埋めるか速やかに園外に持ち出す。また、落葉程度が激しいものは、傷果・奇形果、小玉果を中心に早めに摘果する。
(2)日焼け防止
早期落葉園では、空洞果や日焼け果が発生しやすくなるため、袋掛けや寒冷紗などによる被覆を行う。
(3)新梢の摘芯
落葉程度が激しいものは、新梢が再発芽する。新梢の早期充実を図るため、弱い新梢では、4~5枚、強めの新梢では7~8枚を残し、軽い摘芯と葉面散布を行う。
(4)収穫
着果量が、中程度で落葉も少ない樹の果実は定期的に品質を調査し、収穫期の判定を行う。収穫は、着葉程度により分別収穫し、軟化や傷果が多いことが考えられるので選果を徹底する。なお、軟腐病防除のため収穫前防除を実施する。
(5)貯蔵養分の確保
早期落葉と着果負担、再発芽等によって樹勢の低下、結果母枝の充実不良が予測されるので、施肥時期を遅らせ分施する。施肥量は、今年の新梢の伸長程度をみて加減するが、遅伸びに影響しないよう注意する。落葉の激しい樹は、20 ~30%程度減肥し、追肥で調整する。また、剪定は、やや遅らせ樹形を乱さない程度に結果母枝候補を多く残す。