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少雨・高温対策マニュアル(果樹)
〔全般〕
1.干害(乾燥害)
乾燥は樹体の生長や果実の肥大を抑制するなど生育、収量、品質に及ぼす影響は大きい。また、激しい乾燥が長期に及ぶと、果実の落果、樹体の枯死にいたることもある。
乾燥被害の現れやすい時期は一般に梅雨明けから盛夏期にかけて多くみられ、この時期は高温の害も加わって乾燥害を大きくすることが多い。
とくに、果実肥大期であれば果肉の硬化、肥大不良、ユズ肌果等の障害がみられる。
病害虫の発生は乾燥が続くと一般的に、ダニ類、アブラムシ類等の吸汁害虫の発生が多くなる。
肥効が遅れることになり適期の施肥効果が期待できないことになる。
乾燥の害は乾燥する時期によって被害の現れ方が異なるが、一方では土壌の深さ、有機質含量、地形によっても異なる。
果樹の種類により耐乾性も一様ではない。

2.防止対策
(1) 恒久的対策
ア 乾燥に備えて灌漑施設と用水を確保できることが最も望ましい。
イ 土壌や地形、気象環境によって乾燥しやすい所では耐乾性のある種類、品種を選定することが必要で、また、耐乾性の強い台木を選定する。
ウ 根域分布を広く、深くすることが重要で深耕と有機質を多量に施用し、根量の増加と根張りをよくする。
(2) 直接的防止対策
ア 灌漑用水を可能なかぎり確保し細根部分にスポット的に集中してかん水する。
イ 土壌水分の蒸散を抑えるため、しきわらや草刈りを早目にしマルチする。マルチ材料のない裸地では地表面を軽く中耕する。
ウ 病害虫防除はハダニ類、アブラムシ類が発生するので密度の低いうちに防除する。とくに梨では、ハダニの被害葉は葉焼けを起こすことがあるので注意する。
エ 収穫時期にあるものは温度の低い早朝に収穫を終わる。
オ 種類により異なるが夕方、葉が湾曲や巻くようになると早目にかん水等の直接的な対策が必要である。
力 高温による日焼けを防ぐため、日焼け防止剤を塗布する。
〔かんきつ類〕
1.乾燥対策
(1) 温州みかんは品質向上の面から夏秋季の乾燥は好ましいが、過度な乾燥は果実の肥大、減酸が抑制され、キク症状等が助長される。朝でも葉巻きが直らない過度の乾燥状態になった場合はかん水を実施する。
(2) 中晩柑類は大玉果生産のため着果量を見直すとともに肥大期では7~10日毎に20~30mmをかん水する。特に、ポンカン、不知火、はるみ等は夏秋季の乾燥により酸高果になりやすいので減酸に向けてかん水を優先させる。
(3) 水源が豊富にない場合は、樹冠下へのスポットかん水を実施する。かん水は気温の高い日中は避け、夕方に行う。
(4) 土壌の乾燥防止のため、刈り草やワラ等を利用し、樹冠下へのマルチングを行う。
(5) 乾燥条件下ではハダニの発生が多くなるので、発生初期の防除に努める。
2.高温対策
(1) ハウスみかんでは、高温により着色が抑制されるので、適切、夕方に地表面に少かん水を実施し、夜温を下げ、乾燥ストレスを緩和することにより着色促進を図る。目標糖度に達している園では、遮光資材(遮光率50%程度まで)を天井被覆することにより、日中の日射が緩和され、果実の緑色の抜けが改善される。
(2) 露地カンキツでは、強日射により日焼け果が発生するので、摘果の際に下向き果を優先的に残す。また、炭酸カルシウム水和剤を散布し陽光面を保護することで、日焼けの原因となる果実表面の温度を下げる事が出来る。

〔落葉果樹〕
1.かん水
(1) かん水施設がある場合は、5~7日毎に20~30mm(20~30t/10a)のかん水を目標とするが、樹種や収穫時期等で加減する(裂果の発生)。収穫期に近いものや裂果等が心配される場合は、1回当たりのかん水量を控え回数を多くするようにする。
(2) 十分なかん水量を確保できない時は主要根群域(樹冠周囲1月5日m~2m)の範囲に集中的なかん水を行う。
(3) スポットかん水(点滴かん水)など工夫をする。(肥料袋などに穴を空けドリップかん水、細根域に穴を掘って注水)なお、かん水の時間帯は、気温の高い日中は出来るだけ避け、夕方や夜間に行うことが望ましい。
(4) 特に、幼木は根量自体が少ないので優先的なかん水を行うこと。
2.除草、敷き草、マルチング
(1) 土壌水分の競合を避けるため下草を刈り取る(刈り取った草は、樹冠下にマルチ)。また、除草剤の散布は極力控えるようにする。裸地の土壌表面からの蒸散量を1とした場合、雑草草生は1.6倍程度の蒸散量。(果樹は、地表面が枝葉で被陰されているので少し下がる)
(2) 完全に裸地状態となると水分蒸散が激しくなるので、除草剤による除草は控え、草刈り機による除草を行う。
(3) 敷きワラ(麦わら、カヤ、その他)
ア 土壌表面にマルチすることで、土壌水分の蒸散抑制と地温の上昇抑制を図る。敷きワラマルチを行うことで土壌表面からの蒸散量を裸地の1月5日程度に抑制可能。また地下20cmの地温を30℃以下に抑制可能。(細根の保護)
イ 黒ポリ、透明ポリは逆効果(地温上昇)となる場合があるので注意。
ウ 敷きワラの量が十分に確保できない場合は、主要根群域(樹冠周囲1月5日m~2m)に集中的に(平方メートル当たり2kg程度以上)マルチする。
エ マルチ資材が確保できない場合土壌表面を軽く中耕し、気相を増やす。敷き草や敷きワラ等による株もとへのマルチングを行う。その際、かん水後にマルチングを行うと効果が高い。
※土壌表面にヒビが入ると細根が切断されるので早めの対処を!!
3.着果調節
樹体養分の浪費を抑えるため、早期に各樹種ごとの適正着果量とする。もし、着果過多の場合は早めに摘果、摘房を行い、果実肥大と品質向上に努める。
特に、紋羽病等に罹病し、樹勢が弱っている場合は、大幅な着果制限を行う。
4.徒長枝等不要枝の除去
(1) 徒長枝は、棚面を埋めるため誘引を徹底し、果実等の日焼け防止に努める。
(2) 必要以上に枝葉が繁茂している場合は、早急に枝の除去を行い、水分消耗を防ぐ。
(3) 徒長枝の切除、捻枝(なし、モモ)や、副梢の切除、誘引の見直し-果実への直射日光の抑制-果実温上昇抑制(ぶどう)
※日焼けに注意(主枝、亜主枝の)背面
※育生樹は特に根量が少ないので、かん水やマルチを重点的に行う。
5.病害虫防除
(1) 高温乾燥時は、特に害虫(シンクイムシ、アブラムシ、ハマキ、アザミウマ、ハダニ類)が発生しやすくなるので、これら害虫の早期発見、早期防除につとめる。
(2) 高温条件下での薬剤散布は、葉やけ等の薬害が発生しやすくなるので、早朝等気温の低い時間帯での散布を行うようにする。
6.その他樹種別注意事項
ナシでは、9~10月の少雨で眠り症が増加することが知られている(暖冬・早期落葉・軟弱徒長も原因とされている)(佐賀県)。