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少雨・高温対策マニュアル(作物)
干ばつ(乾燥・少雨)対策
〔水稲〕
1.被害の発生様相
(1) 土壌水分が最大容水量の60%以下になると干害が起こるが、被害の程度、様相は立地条件、品種、生育ステージ等で異なる。
(2) 空梅雨では植付け時期が遅れるとともに植付け後、湛水が不十分となるため雑草の発生が多くなる。
(3) 分げつ期の干ばつは分げつの停止、下葉が枯れ上がる。
(4) 以後、灌漑が十分であれば穂数は減少するが、一穂籾数、登熟歩合の向上によって補償される。耕土の白化状態が20~30日間続くと40~50%減収する。
(5) 幼穂形成期では穎花の分化が妨げられ、白ふ、奇形籾が発生する。
(6) 穂孕期(減数分裂期)の被害が最も大きく、籾数が減少するとともに、不受精籾が増加し、減収する。
(7) 出穂後では登熟歩合の低下、玄米千粒量の低下による減収が著しくなる。また、胴割れ、未熟粒が発生する。
(8) 干害を受けたものは病害虫が発生しやすい。
(9) 干拓地では塩類が地表付近に集積して塩害を起こすこともある。
2.対策
(1) 水不足が予想される地域では、あらかじめ用水系統別に水利計画を立てるとともに、既存の揚水ポンプ等、施設の点検、調整を行う。
(2) 灌排水路の整備に努めるとともに、畦畔からの漏水を防止する。
(3) 中山問部では夕立による雨水を有効に利用するため、畦畔からの漏水防止に努める。
(4) 水田の見回りを強化し、モグラなどの被害を防止する。
(5) 節水栽培の実施(活着期、幼穂形成期~出穂期、とくに穂孕み期は湛水する。)
(6) 7月中旬からの干ばつの場合、早期水稲は畦畔の刈草などを、畦ぎわを中心に敷草し、乾燥防止に努める。成熟期に近いものは、刈遅れにならないよう注意する。
(7) 高温では、紋枯病、トビイロウンカの多発生が予想されるので適期防除に努める。
(8) 塩害が発生した場合は淡水灌漑を行い、塩分濃度を薄める。
(備考)7月下旬までに干害を受け枯死寸前のものについては、すき込み、他の作物を作付けする(大豆、ソバ、飼料作物など)。
〔麦類〕
1.被害の発生様相
(1) 土壌の過乾燥は出芽の遅延、不揃いをもたらし、除草剤の効果も劣る。
(2) 出芽後の土壌の過乾燥は、生育の遅延をもたらし、分げつが遅延するが、その後適湿であれば回復する。
(3) 分げつ期の極度の乾燥は、分げつの遅延、減少をもたらし、穂数も減少する。
(4) 出穂、開花前の干ばつは、不稔をもたらすとともに粒の充実は劣り、小粒化する。
(5) 分げつ期の長雨のあと、登熟期に干ばつにあうと根が傷み、枯熟れとなり、品質、収量とも劣る。
2.対策
(1) 土壌が極度に乾燥している場合は、降雨を待って播種する。ただし、播種期の限界は地域によって異なるが、平坦・沿岸部では12月末までとする。
(2) 土壌が過乾燥状態で播種する場合は、種子の位置はやや深めとし、播種後鎮圧を行うと出芽が揃う。
(3) 土壌が過乾燥状態では、除草剤の効果は劣るが、剤型によって異なる。粒剤よりも乳剤、水和剤等の液剤の方が効果は優る。
(4) 登熟期にかん水が可能な場合は、かん水する。畦の表面が十分に湿ったら出来るだけ早く排水を行う。
〔大豆及びマメ類〕
1.被害の発生様相
(1) 空梅雨で土壌が乾燥すると出芽は遅れ、不揃いとなり欠株を生ずる場合が多い。
(2) 播種が遅れた場合(7月20日以降)は、生育不足となり、減収する。
(3) 出芽後~開花期の干ばつは、分枝数が減少する。
(4) 開花期前後の干ばつは、落蕾、落花を生じ、莢数が減少する。
(5) 登熟期の干ばつは粒の肥大を悪くし、粒数の減少、小粒化をもたらし、品質、収量とも劣る。
(6) 干ばつが続くとダニが発生し、葉が黄化して光合成能力も劣る。
2.対策
(1) 播種後、乾燥が続くことが予想される場合は、播種深度を深めにし、鎮圧すると出芽は良好となり、出芽揃いも向上する。
(2) 播種が7月中旬以降の晩播になる場合は標準播き(10a当たり13,000本程度)より30~40%密植する。
(3) 転換畑で出芽後、葉の萎凋が見られる場合は、灌漑が可能であれば畦間灌漑を行う。この場合、蒸発散の少ない夜間に行い、株元の地表面が湿る程度とし、すぐに落水する。
(4) 中耕は標準よりも浅くし、培土は必ず実施する。
(5) ダニなどの害虫防除を徹底する。
高温(夏期)対策
〔水稲〕
1.被害の発生様相
(1) 高温は一般的には降雨が少なく多日照となり、干ばつを伴う場合が多い。
(2) 高温期は水稲には有利に働き、活着、分げつ、出穂期の促進など生育面でプラスに働くが、登熟期の高温、特に高夜温は登熟に悪影響を及ぼす。
(3) 夜温が高いと呼吸作用に同化養分が消費され、穂への転流が劣り、登熟歩合が低下する。
(4) 登熟の適温は平均気温21℃前後で、23℃以上および20℃以下では登熟は劣る。
(5) 登熟期前半の高温(平均気温26~27℃以上)は、白未熟粒(基白米、背白米、乳白米)の発生に影響し、特に低日照条件では発生が拡大する。
(6) 高温条件下では地力窒素の初期発現が大きくなるとともに、有機物の分解による有害物質の発生で根が障害を受ける。
(7) 高温では、紋枯病、トビイロウンカが多発する場合がある。
2.対策
(1) 登熟期高温を避けるため、早植えはしない。
(2) 適正な水管理による根の活力維持を図る(間断かん水、登熟期のかけ流しによる地温の低下を図る)。
(3) 白未熟粒発生に対しては、事前対策として、適正籾数を確保し(取りすぎない)、倒伏させない様に、地力維持増進(稲体の体質強化)が重要である。
(4) 病害虫の防除を徹底する(紋枯病、もみ枯細菌病、トビイロウンカなど)。