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少雨・高温対策マニュアル(畜産)
1.高温障害の様相
〔大家畜〕
乳牛では、湿度と気温の関係から算出されるThi(温湿度指数)67を超えたあたりから暑熱ストレスの影響が出始める。Thi67は湿度45%では外気温22℃に該当する。
肉用牛では臨界温度は正確な高温領域は判っていないが、湿度60%の場合は気温22℃ですでに暑熱ストレスを受けるとされている。
したがって、この温度領域よりさらに高い状況の中では体内温度を適切なレベルに維持することを最優先とした行動を示す。
具体的には熱生産量を減らすため採食量の減少や放熱のための起立姿勢時間、呼吸回数の増加などである。
このような暑熱回避行動は、乳量の低下やアシドーシス、暑熱後の蹄病の増加に繋がる。
さらに暑熱ストレスは受胎率の低下や発情微弱など繁殖機能にも影響を与える。
乳牛では、乾乳期間における暑熱ストレスの影響も大きく、分娩後の乳量や新生子牛の低体重、次世代の乳量低下にも繋がる。
〔豚・鶏〕
豚は特に高温に弱く、体温上昇や呼吸数増加、飲水量増加、水遊び、横臥時間の増加などが見られ、成豚の直腸温度が普通38.5℃~39.5℃であるが、これが3℃も上昇すると致命的な影響を受ける。
鶏の適温範囲は大雛で20~30℃、肉用鶏では、35℃以上になると死亡する鶏が急増し20~30%が死亡する。また、飼料要求率も著しく高くなる。
2.高温障害対策
〔大家畜〕
(1) 送風による換気と牛体の冷却
大型扇風機の設置は、畜舎内の湿度や熱気を排除する効果と畜体に対する体表熱の放射を助ける効果が高い。
特に乳牛においては、牛を横臥させつつ放熱しやすい環境をつくることが重要であるため、横臥した体勢で風が当たるように扇風機を設置することが肝要。
暑熱期は畜舎内の空気を1時間あたり45~60回入れ換えられる換気量が必要。畜舎内で二酸化炭素濃度がどこでも500ppm以下であれば十分な換気量を確保できているといえる。
大型扇風機の設置にあたっては、肥育牛の場合1頭当り2万円程度の費用がかかるが、牛房内の除湿や、アンモニアガス等の排除効果もある。
鶏(ブロイラー)等は扇風機に集って圧死する場合があるので注意する。
(2) 畜舎の断熱対策
牛舎屋根裏に対して断熱材を使用する方法は一般的であるが、応急的な方法としては、シルバーシートや発泡スチロール等の断熱材を屋根裏から30~50Cmの空間を設けて設置し幅射熱を最小限にとどめる。
この場合、空間の高温になった部分の空気を排除するよう通気孔、またはファンをとりつける。
屋根を二重屋根にすることも断熱効果がある。
(3) 屋根の温度上昇を防ぐ
遮熱資材を屋根に塗布することで、屋根の温度上昇を防ぐ。
消石灰は畜舎の屋根を白色塗装することで、太陽光の反射率を上げる効果がある。
(消石灰散布例)
工業用消石灰特上を用い、ドラム缶内で水に溶かして、動噴で散布する。消石灰は100平方メートルあたり50kg(20kg入りで2~3袋)使用、希釈は1袋につき40リットルの水を使用。常に撹拌しながら散布する。散布作業は滑り易いので事故に注意する。
効果:スレート屋根の場合表面温度差10℃、裏面温度差15℃、3~4ケ月効果が持続する。
消石灰の散布は安価であるが、毎年塗り直しが必要。白ペンキや遮熱塗料を使用することで、数年間維持する方法もある。
スレート屋根を白い畜産波板へ変更することも効果がある。
(4) 屋根の温度を下げる
かん水チューブ(エバーフロー)をセットし、屋根に散水する。屋根裏に断熱材が無い畜舎での効果が高い。
雨どいが無い場合は、畜舎周辺の湿度が高まり逆効果になる場合があるので注意する。
また、水圧の関係で、屋根まで水が上がらない場合がある。揚水ポンプ等を活用して対処が必要。
(5) 牛体への散水
牛体を濡らし、体に風を当てることで気化熱により体感温度を下げる。
濡らしたあとに風を当てることがポイント。
首など太い血管のある場所を冷やすのが効果的。
ソーカー(散水設備)の設置場所によっては牛床の濡れや除糞の頻度に注意が必要。
暑さが原因で呼吸が速く飼料摂取量が低下している牛であれば、20~30分間冷水をかけていると体温が約1℃下がり、反芻を再開する。しかし、その他の疾病を併発している場合は効果が見られないこともある。
ホースで蹄から肢、頸から胸といった流れで、皮膚の深部まで冷水が浸み込むように注ぐ。心臓の急冷は負担がかかるため、心臓から遠い場所から徐々に冷やす必要がある。
(6) 軒先の寒冷紗の設置
パドックや畜舎へ直接日が差し込む場所に設置することで、牛床への直射日光防止、水槽内の水温の上昇防止となる。
寒冷紗を設置する場合は、
ア 牛の舌が届かないようにする。
イ シワにならないようにピンと張る(シワができると風でたわみ、寒冷紗が飛ばされてしまう)。
ウ 適当な通風について配慮すること。
(7) ミスト(細霧)
細かな霧状の水を畜舎空間に散布し、大気中で蒸散させ、気化熱の冷却効果で周囲の温度を下げる。
湿度が高いと効果が低下するため、湿度70%までが目安。換気が不十分な畜舎には不向き。
〔豚・鶏〕
(1) 豚
寒冷紗等を利用し日陰の確保や水浴びできる水溜またはミスト噴霧や空調を用意し、畜舎および豚の体熱をできるだけ下げ、ストレスのかからないように対処する。
(2) 採卵鶏、肉用鶏
暑熱対策としては、換気扇、細霧装置の利用、屋根や鶏舎周囲への散水を行うことで、鶏舎内の温度を下げることができる。また、つる性植物によるグリーンカーテン、遮光ネット、ひさし等を利用し直射日光を遮ることも効果的である。
3.飼養管理対策
(1) 飼料給与の工夫
牛については、消化の良い粗飼料はルーメン内でより早く消化され発酵中の熱生産が少なく体温上昇を防ぐ。また、乾物摂取量の維持に良質飼料の給与は効果的である。
ただし、飼槽に残飼が残っていると新たに給与した飼料の腐敗や悪臭の原因になり、採食量が低下する。細菌が繁殖しやすい状況にもなるため飼槽は常に清潔にする。
豚については、暑熱下では1回の飼料摂取量が減少するため、妊娠豚は朝夕の涼しい時間に1日3回に分けるなど給与方法を工夫する。
暑熱期はエネルギーの高い授乳期用飼料の給与や、市販のサプリメントでのカロリー補給も効果的である。
鶏については、暑熱下では飼料摂取量が減少するため、高カロリーの餌に切り換え、カロリーの給与に努める。飼料摂取量の減少は、採卵鶏では産卵率や卵重の低下など、肉用鶏では発育不良などの原因になる。
(2) 十分な飲水の確保
牛体を冷やすためにも暑熱時は飲水量が増加する。水槽を頻繁に掃除し、新鮮な水を十分に自由飲水できるよう対処する。
採卵鶏、肉用鶏についても飲水量が多くなるので、新鮮な水を十分に飲める状況にしておく。冷水を給与することも効果がある。
(3) 適正飼育密度
密飼いを避け、適正な飼育密度で飼養することが重要である。
(4) 扇風機の掃除
ホコリやクモの巣が付着していると風量が低下する。送風量を確保するため毎年夏までに掃除をする。節電にもつながる。
4.飼料作物対策
(1) 草地については、過放牧、過度の低刈りや短い間隔での刈取りを避け、貯蔵養分の消耗を軽減して草勢の維持に努める。
(2) 土壌条件等により高温及び晴天の影響が大きく現れる地域では、土壌の保水力を向上させるため有機質の多投等を行うとともに、今後播種する場合には、耐干性の優れた草種・品種を選定すること。
(3) 青刈りトウモロコシ、ソルガム等については、収穫期が近い場合にはコストに配慮しつつ、かん水が困難ないしは回復が困難と思われる場合は、早期に収穫を行い、品質低下の防止に努める。