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初めての壱岐
大分県知事 広瀬勝貞
今回の九州地方知事会は、長崎県の壱岐で開催されました。玄界灘に浮かぶ島で、福岡県博多港から80km、佐賀県唐津港から40km、肝腎の長崎県からはもっと遠いところです。ですから知事会メンバー9人中、長崎県知事ともう1人を除き7人が初めての壱岐でした。
今は人口27,000人程の落ちついた島ですが、対馬とともに古来、大陸や朝鮮との交流のルートとして賑わったようです。島のあちこちで古墳や縄文、弥生の様々な埋蔵物が発掘されており、「魏志倭人伝」に一支国の王都と記されている原の辻を臨む一支国博物館に展示されています。
交流のルートですから、海路の気象を占い、安全を祈ることが多かったのでしょうか、この島ではト占が盛んだったようです。それと関係あるのかどうか、壱岐には日本最古の神社と言われる月讀神社があり、神道発祥の地とも言われています。
島ですが、意外にも長崎県で2番目に広い穀倉地があり、今でもふと瑞穂の国の原風景を思わせるような心和む田園風景が広がっています。ここでは古くから米や麦が作られてきたようですが、16世紀には大陸から蒸留技術が伝わって、江戸時代には麦を原料に米麹で発酵させた麦焼酎が造られていたようです。麦焼酎の元祖は大分県と思っていましたが、500年の歴史には敵いません。今でも7社の壱岐焼酎メーカーが操業しています。
こちらでも農業の構造改革が課題のようで、伝統の壱岐牛の増頭や園芸作物への転換を進めているとのことでした。島ですから水産業も盛んだそうで、特にクロマグロは北の大間、西の壱岐と言われる程だそうです。
壱岐が大陸・朝鮮との一大交流拠点とすると、太宰府や宇佐神宮はそこから畿内を結ぶ拠点であったと言われており、案外、宇佐あたりとも交流があったのかもしれません。壱岐には豊後の豪傑が人々を苦しめる鬼退治にやってきたという伝説が伝えられており、今でもそれを絵にした鬼凧と言われる凧があり、子どもたちに親しまれているそうです。大分県に伝えられる百合若大臣の伝説と符合しますね。
夜の懇親会では、地元の魚介類に圧倒されました。ニックキ麦焼酎も試してみましたが、これもなかなか奥深い味わいでした。出席しておられた市長さんの話では、「何と言っても島の最大の課題は地方創生で、農業、畜産、それに水産業の高付加価値化、高収益化に力を入れている。商工業の分野でも、壱岐焼酎メーカー、食品加工業など既存産業の振興のほか、これからはやはりIT産業に期待しており、島全域に整備した光ファイバー網を活用し、サテライトオフィス、テレワークに取り組む」と意気盛んでした。
九州本島から遠く離れた厳しい立地環境をものともせず、地域特性を活かし、離島振興に挑戦する壱岐の姿を目の当たりにして、島で開かれた令和初の九州地方知事会では、改めて「地方創生は九州から」の気概をもって、九州の強みを活かしながら、子育て、仕事づくり、そして安心で魅力あふれる地域づくりなどに果敢に挑戦していこうと決意を新たにしたところです。
~県政だより新時代おおいたvol.125 2019年7月発行~